“ミスタータイガース”こと掛布雅之(1955〜)は、108打点・40本塁打で昭和60(1985)年の阪神日本一に大きく貢献した。優勝監督となった吉田義男氏は、掛布の実力を早くから見抜き重用。野手としての実力を開花させた。
わたしは昭和49(1974)年オフ、初めて阪神の監督に就任しました。巨人が10連覇達成ならず、現役引退した長嶋茂雄が監督に就いた年です。新監督は大洋が秋山登、広島がジョー・ルーツ(途中から古葉竹識〔こばたけし〕)で激動した「昭和」を表すかのように監督交代が相次ぎました。
その暮れに若手選手の親御さんたちと食事をする機会がありました。掛布が1年目を終えた年で、ほとんどの親が息子のアピールをしてきたが、もっとも印象的だったのが、掛布の父親で中学、高校の野球部監督を経験した泰治(たいじ)さんでした。
「雅之はどんなことにも耐えるように鍛えています。どうか息子をレギュラーにしてやってください」
掛布は千葉・習志野高からドラフト6位で阪神入りします。2年夏に甲子園に出場しましたが、ほとんど無名といえる存在でした。
当時の主力には、田淵幸一、江夏豊、遠井吾郎、和田徹ら大柄がそろっていたので「阪神相撲部屋」と揶揄されたものです。プロ入り時は将来性を評価されていたようですが、当時身長170センチぐらいで小柄の掛布は埋もれていた。わたしはチーム全体が体を絞る必要性を感じたので、東京教育大学(現筑波大)出身で、京都の高校で陸上などを指導していた中川卓爾先生を引き抜き、トレーニングメニューを作ってもらったのです。
昭和50年1月の自主トレで甲子園球場内に一周400メートルのトラックを設け、コース10周の長距離走を命じました。掛布の高いポテンシャルを見抜くのに時間はかからなかった。ほとんどが立ち止まったり、ギブアップするなか、いつもトップで走りきった。
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