パ・リーグの元広報部長で、「パンチョ」の愛称で親しまれた伊東一雄(1934〜2002)。昭和40(1965)年に始まった「プロ野球ドラフト会議」で司会を務め、一躍有名になった。元フジテレビアナウンサーで、娘のように可愛がられていたという松井みどり氏が、その素顔を語る。
私が初めてパンチョさんと出会ったのは30年以上前、神宮球場のグラウンドでした。当時の私はまだ入社2〜3年目のアナウンサー。プロ野球のことなどほとんどわからなかったので、パンチョさんがどういう方かも知りませんでした。ご挨拶すると「みどりか。みどりはイタリア語でヴェルデだな」と言って、ウインクされたことを覚えています。
今以てなぜだかわかりませんが、パンチョさんは私をとても可愛がってくださいました。私にだけ取材先のお土産をくださったり、著名な方をご紹介くださるなど、最初はあまりに特別扱いされるので恐縮していたのですが、パンチョさんは周りに「こいつは特別なんだ」と堂々とおっしゃるので、私もちゃっかりそれに甘えてしまいました。
パンチョさんは、思いも寄らない素晴らしい経験をたくさんさせてくださいました。平成5(1993)年から開催されているJリーグアウォーズには、パンチョさんの同伴者として参加させていただきました。パンチョさんは、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎さんや各界の著名人とフランクにお話しされていて、まさにパーティーとはこういうものなのだなと、若い私は眩しく思っていました。また、メジャーリーグのチームのオーナーご一家が来日された際には、会食の席に呼んでくださいました。メジャーリーグの知識などほとんどない私が、拙い英語で必死に話しているところをニコニコしながらご覧になっていました。
プライベートでは、食事にもよく連れて行っていただきました。ご贔屓は青山のイタリアンレストラン・サバティーニ。乾杯の時には必ず「君の瞳に乾杯」と言ってウインクされるのが、とてもチャーミングでした。「オレにはラテンの血が混じっているんだ」という言葉を最初は本気で信じていたほど、そういうキザなセリフが似合う方でした。
食事の時はやはりメジャーリーグの話。ジョー・ディマジオとの交流など、様々な体験を聞かせていただきました。当時はメジャーリーグは日本にとってまだ遠い存在でしたが、「今に必ず、日本人がメジャーで活躍する日が来る。それをこの目で見るのが、オレは楽しみなんだよ」と、目をキラキラさせながら話していたのをよく覚えています。
番組のオンエア上でご一緒する機会はありませんでしたが、現場でお会いすると必ずあの朗らかなお声で「おい、ヴェルデ!」と声をかけてくださいました。そんなパンチョさんの具合が悪いと聞いたのは、平成12(2000)年頃。久しぶりに「すぽると!」に出演される時には私も立ち会いましたが、あまりに痩せてしまわれたお姿に衝撃を受けました。「心配かけたな。大丈夫だから」弱々しくそう言いながら車で帰られるパンチョさんを、声もなく見送りました。その後、お見舞いにも伺いましたが、ちょうど眠っているということで、お会いすることは叶いませんでした。今思うと、病床の自分の姿をあまり人に見せたくない、元気な自分を覚えていてほしいというお気持ちもあったのかもしれません。
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