記録にも記憶にも残るプレーで、ミスタージャイアンツと呼ばれたのが長嶋茂雄(1936〜)だ。共にⅤ9獲得に貢献し、長嶋の監督時代も支えた、柴田勲氏が見たミスターの素顔。
長嶋茂雄さんは、巨人で「ミスタープロ野球」と呼ばれる前から、すでにスター選手でした。
僕が中学生だった1950年代。まだプロ野球よりも大学野球が人気で、そのなかで象徴的な選手だったのが立教大学の長嶋さんでした。昭和32(1957)年に、東京六大学リーグ新記録となる通算8本目のホームランを打った長嶋さんが、翌年に鳴り物入りで巨人に入団したのは、その後のプロ野球人気の幕開けのように思えてなりません。
![](https://bunshun.ismcdn.jp/mwimgs/b/2/1600wm/img_b255241585c4265cca85909f3ae225da223020.jpg)
昭和34年4月に皇太子殿下と正田美智子さん(現・上皇陛下と上皇后陛下)のご成婚が行われ、それを見ようと一般家庭にもテレビが普及、プロ野球も、より身近となりました。
その大きなきっかけとなったのが、同年6月の天覧試合です。天皇、皇后両陛下(昭和天皇、香淳皇后)が初めてプロ野球を観戦された巨人対阪神戦。この試合でサヨナラホームランを打った長嶋さんは、たちまちスターとなりました。高校生となっていた僕も、「巨人に入って長嶋さんと一緒に野球がしたい」と、強い憧れを抱いたものです。
僕は法政二高時代に甲子園で2度も優勝できたことで、複数の球団からお誘いがありました。当時はドラフト制度が始まる前で、選手の意志で行く球団を決められたため、巨人を選択。昭和37年の入団時に川上哲治監督と長嶋さんが来てくださって、「一緒に頑張ろう!」と写真を撮ってもらい、胸が高鳴りました。
長嶋さんの魅力の源は、やはりファンサービスの精神です。僕らチームメートは自分のプレーで精一杯なところ、長嶋さんは「どうしたらお客さんを喜ばせられるか?」を常に考え、実践していました。豪快な空振り。サードへの平凡なゴロを華麗に捌く――中には「オーバーアクションだ」と非難する人もいたでしょうが、長嶋さんは「ファンが求めるのなら」とスタイルを貫いた。
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source : 文藝春秋 2024年8月号