強さの秘密は髪型や推薦入試だけではない
この夏の甲子園において、107年ぶりの日本一に輝いたのが神奈川の慶應義塾高校(以下、塾高)だった。
監督の森林貴彦(50)をはじめナインらは「高校野球の常識を覆す」をテーマに掲げていた。長い髪を浜風になびかせ、笑みに溢れながら、部訓である「エンジョイ・ベースボール」の姿勢を貫く。それはいまだに軍隊風の“伝統”の残る、高校野球界の常識を覆す快挙だった。主将の大村昊澄(そらと)は言う。
「髪型が注目され(是非が)議論されている時点で高校野球はまだまだだと思う。僕らは髪型が坊主じゃないから慶應を選んだわけじゃない。高校野球を通じ、自分で考えて成長するための正解を見つけていく森林さんの考え方に惚れて入部した。日本一という成功体験を得られ、それは間違いではなかったと思います」
連覇を狙った宮城・仙台育英高校との決勝当日、甲子園球場は慶應の大応援団で埋め尽くされた。天野雅道はバックネット裏から声援を送り、得点の度に同窓の仲間と肩を組み、応援歌「若き血」を絶唱した。彼は、学校の所在地にちなんだ野球部OB会「日吉倶楽部」の6代目会長である。
野球部には毎年30から40人の生徒が入部する(今夏の総部員数は106人)。彼らが引退後に入会する日吉倶楽部の会員は現在、約1600人にもなる。年会費は1万円で、集まったお金は主に野球部の支援に回される。天野は言う。
「1888年に創部された前身の三田ベースボール倶楽部の時代から野球部を応援する組織はありました。新制高校として塾高が開設されると日吉倶楽部になり、今年で75年目を迎えました。野球部の支援と、OBの親睦が会の目的です。多くの学校のOB会と、やっていることは変わりません」
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source : 文藝春秋 2023年11月号