生化学分野で数多くの業績をあげ、研究者育成にも力を注いだ早石修(1920〜2015)。教え子の福島雅典氏が“先生”を語る。
早石修先生は、アメリカの国立衛生研究所の毒物学部長だった昭和30(1955)年、生命の酸素の直接的利用にかかわる酸素添加酵素の存在を証明したことで知られる。
帰国後、京都大学医学部教授となっていた先生のもとを、私が訪ねたのは昭和46年の初夏だった。早石研は広範な意味では生化学、代謝学を学ぶ研究室だが、厳密には酵素学――生命を構成し、特定の機能をもつタンパク質の働きを研究していた。全国から研究熱心かつ大志ある大学院生が集まり「早石道場」とも呼ばれていた。
当時、51歳だった先生は目力があり、口数こそ決して多くはないが、強いオーラを放っていた。名古屋大学医学部の5年生だった私はどこの大学院で、どの教授に師事するかを探していたが、先生に会ってからは、すぐに決断した。翌々年からの2年間は、私の研究者人生の礎となる、濃密な時間となった。
教員たちと学生が弁当を食べながらディスカッションする「ランチセミナール」を毎日開くなど、先生と私たちの距離は近かった。ある寒い夜、私は研究室にあったストーブに手をかざしながらなかなか結果の出ない実験の話を仲間としていた。
「こんなことやっていても無駄だ。郷里に帰って、風邪の患者でも診ていた方がよっぽどましな人生だ」
そんな投げやりな言葉を口にした時、研究室の空気が一変し、ピンと張り詰めたことを覚えている。私の背後に、ちょうど部屋に入って来た先生が立っていたのだ。先生は身を固くした私の肩に手を置き、優しい笑みを浮かべながらこう言った。
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