十七代目勘三郎 これぞ千両役者

中村 哲郎 演劇評論家
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十七代目中村勘三郎(1909〜1988)は、あらゆる種類の人間を演じられる昭和を代表する歌舞伎俳優だった。演劇評論家として時代を伴走した中村哲郎氏が、その芸の豊かさ深さを綴る。

 昭和も戦後期の四十数年間、舞台・映画・テレビという芸能世界には、優れた個性や名だたる腕達者が、数多く活躍した。

 わたしが実見した中で、巧さも巧しだが、最も面白かったのは十七代目中村勘三郎である。若い時分には、酒飲みの機嫌買いで、舞台を投げる日もあったらしいが、わたしが観る頃には、大病後で一念発起、演ずる役々すべてが面白かった。

 代表的な歌舞伎俳優だったが、その芸の力は歌舞伎に留まらず、広範囲に浸透する普遍性を持っていた。何故なら、勘三郎の面白さの本質は、人間表現の多彩さ、人生の描出の豊かさにあったからである。

十七代目中村勘三郎 Ⓒ文藝春秋

 舞踊劇『釣女(つりおんな)』の彼の醜女が、被り物を取って顔を見せた瞬間の、満場を揺るがす爆笑。新作『源氏物語 浮舟』の匂宮が、舞台の下手奥から「女の臭いがするぞ」と言いつつ登場するや、客席を好色の浮気心で包んでしまう不思議さ。

 さらに、お店の金を紛失し、入水を計る若者に出遇った職人の長兵衛が、娘を吉原に預けたばかりの五十両を投げ与え、「死んじゃアいけねえ!」と叫びながら走り去る、生への祈りのごとき強い余韻。――彼が没して相当の年数になるが、これらに勝るものが無い。

「演技とは、平常の蓄積」と言われる。勘三郎の実人生の歳月には、感情が昂り、心理が屈折する日々が多かったようだ。肉声が聴こえてくる『自伝 やっぱり役者』(文藝春秋・1976)には、彼の涙が溢れている。

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source : 文藝春秋 2025年1月号

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