【イベントレポート】経営に本当に役立つデータとは? ~収集・統合・分析・可視化・活用・改善までの最適解~

■基調講演

業務成果につなげるためのデータ活用リテラシーとは

データ&ストーリー LLC代表
横浜国立大学非常勤講師 多摩大学大学院客員教授
柏木 吉基氏

慶応義塾大学理工学部卒業後、日立製作所入社。欧米両方のビジネススクールにて学びMBAを取得。Academic Award受賞。日産自動車へ転職後、海外マーケティング&セールス部門、ビジネス改革グループマネージャ等を歴任。グローバル組織の中で、数々の経営課題の解決、ビジネス改革プロジェクトのパイロットを務める。2014年独立後は、豊富な実務経験と実績に基づいたプログラムで、数多くの企業・自治体のスキル育成、パフォーマンス改善に貢献。長年の実務経験に基づき、データ分析のやり方ではなく、データ分析の活かし方を伝えられる唯一の講師として高い定評と実績がある。多数の著書あり。

◎「データ活用」で何ができる?何が必要?

データ活用は2種類に大別できる。
・「データそのもの」や「データから得られた情報」を事業の“商品”として活用すること。
・営業やマーケティング、経営管理など、自業務の成果を出すための“手段”としてデータを活用すること。
両者は別物であり、しっかり区別する必要がある。今日は後者について話をする。

業務で「データを活用できている」とは、何がどうできていることだと考えるか?この問いへの回答に悩む人は多い。データ活用とは“問い”に対するソリューションをデータ導くことだと私は考えている。具体的には、データから得られた客観的な情報に基づいて、行動(アクション)や判断(意志決定)に繋げることが、活用していると言えるだろう。

これに反して、既存のデータから何かしらのパターンを読み出すことをデータ活用と考えているケースが多いのではないだろうか。それではデータ活用に到達できない。「データありき」ではなく、「ゴールありき」の発想が必要だ。ゴール(知りたいこと)を決め、データによってそれを確かめることが肝要。考えて(ゴールと仮説設定)⇒作業して(分析作業)⇒考える(分析結果の解釈と結論構築)、の順番がとても重要だ。

料理に例えれば、データ=食材、分析手法=調理器具、統計=電子レンジの操作マニュアルとなる。しかし、これだけではゴール=美味しい料理を作ることはできない。成果を出すための考え方=レシピが必要なのだ。繰り返すが、ゴール(目的や問題)に向けて、やり方と知識(基礎的な分析手法、統計学、データサイエンス、プログラミング)をつなげなくてはならない。つなげるためには正しいデータ選択、正しいプロセス、適切な仮説などが必要だ。しかし、このつなげる部分が決定的に欠落したまま分析作業にまい進しているケースが非常に多い。

◎「データ分析」のゴールはどう立てる?

業務上のゴールだけではなく、分析上のゴール(業務ゴール達成のためにデータから何が必要になるか)を設定しなければならない。例えば、業務上のゴール=成果・アウトカムが「シェア○%を達成したい」だとする。その場合の分析ゴール=成果に向けた方向性の1つを示すための判断ごとは「担当製品の販売伸び悩みの主要因をは何か?」「リピート購入率を上げるための最適な方策は?」などといった“より具体的な課題”として設定する。これがデータ活用をうまく行うコツの一つだ。

また、例えば「業務負荷改善」というゴールにおいて、「業務負荷増大を防ぎたい」と「業務負荷を減らしたい」とは全く別物であることにも注意をしたい。前者は“増加率”、後者は“負荷の量”を問題としているからだ。言葉の使い方ひとつで、使うデータや指標が全く変わってくることも珍しくなく、そこを曖昧にしたまま分析作業を進めてしまうことがある。言葉の具体性、そしてゴールの置き方は非常に大切である。

◎「データ活用」はどう進める?/何をどうやる?

データ活用のプロセスは、ゴール定義⇒現状把握・評価(今どうなってるの?)⇒要因特定(“なぜ”そうなってるの?)⇒方策検討、が基本である。しかし、要因特定を飛ばしていきなり方策に飛んでいる例が非常に多い。すぐに「何をどうやるか」に飛びついてしまわないようにしたい(私はこれを“方策君”と呼んでいる)。

例えばサツマイモの生産額が多い事実をデータから確認した後に、「では、地産地消を活かして、サツマイモを使ったスイーツを作ろう!」という結論にいきなり飛ぶのは典型的な”方策君“だ。「生産額が多い」は「それを使ったスイーツを作る」という結論の根拠にはなっていない。そもそも何をゴールに「生産額データ」を調べたのかも曖昧だ。このように、データを見てわかったことから大きく飛躍してすぐに思いつきアイデアの結論に飛んでしまうのは、分析力の問題ではなく、問題解決の思考法がわかっていないことに起因する。つまり、データ活用には、データ分析スキルだけでなく、問題解決スキルやロジカルシンキングスキルなどもベースとして欠かせないのだ。

私は、このベースとなる考える部分を「分析デザイン」と呼んでいる。私の活動の半分近くはこうした分析デザインを適切に作り上げるスキル育成に充てている。分析手段や知識は、あくまで方法論(手段)であり、アプリケーションでしかないのだ。しかもそのアプリケーションは今や機械のほうが圧倒的に優れてこなす時代だ。

以上のことを踏まえていつも私が研修や講演でお伝えしている言葉を紹介したい。

データ活用とは、データ“を”分析することではありません。
ゴール(目的)の対象をデータ“で”分析することです。

■課題解決講演(1)

データドリブンの本質を探る
~実例から紐解くDX成功の鍵~

ドーモ株式会社
プリンシパルコンサルタント
山下 伸一氏

2021年10月ドーモ入社。国内企業のデータ利活用、デジタル改革を掲げるドーモにおいて、マネージメントチームの一員として職務を遂行。コンテンツ管理、データ分析、パブリッシングなど様々なソリューション提案の経験を活かし、ソリューションコンサンティングチームをリードしている。ドーモ入社以前は、国内外のIT業界にて25年以上の経験があり、外資系IT企業を立ち上げ、10年以上のカントリーマネージャーとしての豊富なビジネス経験とイノベーション力でいくつもの事業改革をしてきた。

スポーツの世界でもデータ活用は進んでいる。例えばサッカーやアメリカンフットボール(NFL)、野球ではデータを蓄積・分析しての戦略・作戦構築やリアルタイムでの指示、守備位置取りなどに活用されている。NFLではヘッドコーチやデータサイエンティスト、アナリストと司令塔であるクォーターバックがヘルメット内のレシーバーで交信し、臨機応変に作戦を立てる。

また、当社DOMOの顧客でもあるバスケットボール(NBA)チームのユタ・ジャズでは、本拠地スタジアムのシート管理にデータを活用している。チケットの販売状況や年間契約の状況、チームの勝率、対戦相手、気候などのデータに基づき、チケットの価格やキャンペーンをリアルタイムで変えている=ダイナミックプライシング。

こうしたスポーツ界のアナリティクスと、ビジネス界のデータドリブンの違いは何か。それは、即時性とアクションだ。スポーツの場合は、データ分析の反映・応用のサイクルが非常に速い。スポーツは1戦1戦、1シーズンの優勝や勝利が目標だ。一方ビジネスは日々の業務の積み重ねが日々のゴール。月次、年次、そして複数年を見据えなければならない。評価の方法も顧客満足度、株価、PER(株価収益率)などさまざまな指標による。

企業においてもDX、データドリブンは進んでいるが「効果がいまひとつわからない」「社員に浸透しているかどうかが見えない」「自分の業務に影響が感じられない」という声を経営層、マネジメント層からよく聞く。

データとは“知るための情報”である。DXはあくまで手段であり目的ではない。DXの目的=ゴールを経営層が持つことが成功の鍵で、DXの意図と目的を従業員に伝えることが経営者の役割だ。また、経営者は現場におけるデータの使い方やプロセス、ツールなどとのマッチングを行うことも必要だ。データ(に対する)ビジョンも持ちたい。データやシステムのサイロ化を避け、パズルの各ピース=データがきれいに嵌まり統合され、一枚の絵=戦略になるようにする。

◎DOMOでクッキング!

データマネジメントプラットフォーム「DOMO」で、ITプロセスとビジネスを最適化する流れを“クッキング”に例えて話す。

まずデータの「収集」。これは、自然に集まっているデータではなくて意図をもって集めている最新のデータである必要がある。10年前の古いデータは使い物にならない。食材であれば収穫である。次に「統合」。何を作るか=目的を決め、必要なデータを集める。作る料理に必要なさまざまな食材を集め、下ごしらえをし、焼き、煮るのだ。

可視化」。集めたデータを見えるようにする。統合して置いてあるだけでは意味をなさない。エクセル表をつくって眺めていても何も起きない。よって、見やすく人の役に立つようにする。ここが調理が終わって料理ができあがった状態だ。

分析」。AIや機械学習を活用し、特異性のあるデータや異常値を見つける。できあがった料理を鍋やフライパンから直接食べないのと同様、デコレーションや分析をして並べ直し、適所に配置する。なお、人が対応しなければならない、リアルタイムでビジネスに直結するデータは人が分析を行う。分けて管理するのだ。

活用」。実際に出来上がったデータ、レポートを見ているだけでなく、活用しなければならない。できあがったデータ=料理はしっかり食べる。何がおかしくて何がダメなのか(不味いのか)、どういう施策を打てばいいのかまで考える。そして「改善」。結果の評価をしてカイゼンを行う。上手くいったものは(美味しかったものは)拡散・紹介する。上手くいかなかったものは改善する(味を調える、味付けを変える)のだ。

◎成功のための3つのポイント

データドリブンを成功させるためのポイントは、目的を明確化/データの活用/組織全体の文化、である。

例えばロジスティードは、顧客のビジネス環境の変化に対応しロジスティクスを担う自分たち自身もDX化が必須と認識。データを活用した自社事業基盤のDXから、顧客価値最大化のためのDX戦略へ変遷した。そして、自社投資済みのDX基盤を顧客のニーズに合わせて活用してもらうSaaS型モデルを構築。DOMO使って商品化し再販して、新しいビジネスにつなげている

オムロンは、社内のテクニカルレポートや品質関連データを自動集約して上手く活用する仕組みを構築した。脱エクセルを果たし、ツークリックですべてのデータにアクセスできるようにし(ダッシュボードも構築)、リアルタイムの最新情報や客観的な情報を活用してのデータドリブン経営を行っている。

経済産業省は「変革を推進する組織・人材とデータマネジメント」の論考レポートにおいて、「AI時代のDX実現において、変革推進やデータマネジメントの担い手が不可欠と考えられる」と記している。人材を育成し、社内組織内に定着化しデータ活用を推進する必要がある。

“TRUSTED ADVISOR”=経営者から信頼を得てビジネスの発展に貢献する助言者として、私は今後、皆様の経営課題を一緒に解決したいと考えている。データ活用関連以外でもかまわないので、話をお聞かせいただきたい。

■特別講演(1)

「DATA is BOSS」収益が上がり続けるデータドリブン経営超入門
~データドリブン経営の実装と経営層が陥りやすい罠~

株式会社一休
代表取締役社長
榊 淳氏

慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)にて金融工学を駆使したトレーディング業務に従事。2001年に米国スタンフォード大学院のサイエンティフィック・コンピューティング学科修士課程を修了後、約10年間コンサルタントとして活躍。2013年に株式会社一休に入社し、2016年に代表取締役社長に就任。2023年からはLINEヤフー株式会社 執行役員 コマースカンパニー トラベル統括本部長も務める。ほかにも、「国際医療ボランティア団体」特定非営利活動法人ジャパンハート 理事、株式会社じげん 社外取締役を務める。

宿泊予約事業とレストラン予約事業を柱にしている当社は、コロナ禍での停滞はあったが2023年度まで右肩上がりの成長を遂げてきた。市場成長の追い風に乗っているわけではなく(市場は横ばい)、事業領域も拡大しておらず、マーケティング投資もせずに利益を出しながら成長している。23年度の営業利益は251億円。正社員は180人なので、経営効率は高いと考える(営業利益率は5割超)。この業績を達成している理由は、データドリブンな会社に変身したからだ。

◎一休のデータドリブンな取り組みの紹介

旅行業界では商品(機能、品質、コスト)を差別化しにくい。よって当社はデータドリブンにより売り方(売り場、プロモーション、価格)を差別化・最適化している。ちなみに小売り業界と違って私たちは仕入れ(在庫)と配送がない。

まず売り場の最適化について。宿泊も飲食も、検索結果表示は一人一人にパーソナライズされ、異なる。同行予定人数によっても結果表示は変わるし、トップページのリコメンドも人により変えている。プロモーションも顧客行動により変えている。例えばサイトを訪問して購入しなかった顧客の場合でも、(1)日付を入れて宿を3件ほど閲覧した場合と、(2)特定の宿を5分くらい詳細に閲覧した場合では対応を変える。

(1)の場合は、具体的に旅を考えているが宿が決められない状態、と推測。次回には閲覧した宿と類似の宿を知らせる。前回の閲覧が3件とも箱根の場合は、顧客の関心は箱根という「エリア」と判断し、箱根エリアの売上ランキングなどを知らせる。3件とも関東近県の“和モダン”旅館なら、顧客の関心は「商品のタイプ」と判断し、関東近県で人気の和モダン旅館を表示する。3件とも関東近県の10万円以上の宿なら、顧客の関心は「商品の価格帯」と判断し、同地域で人気の高級宿を知らせる。

(2)の場合は、希望の宿が決まっていると判断し、宿泊者目線の体験ログなど、その宿の詳細コンテンツを表示する。

価格の最適化。価格はホテルや旅館側が決めるが、当社の原資で割引はしていいという取り決めになっている。よって、プロモーションメールでポイントを知らせる形で顧客ごとのプライシングを行っている。また、さらに深い対策として、過去の購入履歴や閲覧履歴、PVなどのデータをもとに購入確率や提供価格を計算し、「リアルタイム」の顧客別プライシングを行い、特別クーポンを配信している。

経験値から、ロイヤルカスタマーに割引クーポンをプッシュ送信するよりは、買うか買わないか迷っているユーザーに最後のひと押しとしてクーポンを送るほうが効果的と考えている。なお、当社は先述の3点=売り場/プロモーション/価格の差別化に取り組んでいるが、他の業種・業態では機能/品質/コスト/仕入れの差別化も考えられるだろう。

◎データドリブン化の全体像

データドリブン化で持続的な事業成長を実現するためには、顧客の徹底理解が不可欠だ。(1)顧客行動データなどのデータ整備 (2)顧客行動データを通じた顧客の徹底理解 (3)顧客向けの施策の実行、の三段階の上に持続的な事業成長がある。

当社の“顧客行動を見える化”するフレームワークは下記スライド参照。(1)売上に至るプロセス (2)顧客タイプ別の利益構造、(3)顧客別の累積利益(Life Time Value)それぞれをあまり理解していない企業が日本にはまだまだ多い。「どのお客様が儲かっていますか」にまで答えられるようにしたい。

フレームワークの(1)では、自社の競争環境を詳細に見える化している。売上=市場規模×シェアだが、当社は「商品タイプ別」の売上=市場規模×シェア、の分析をしている。例えば、ビジネスホテル、ホテル、リゾートホテル、旅館それぞれでの市場規模と当社シェアを分析・把握し打つ手を考えているのだ。「商品価格帯別」の売上=市場規模×シェアも見ている。

さらに、「商品選定理由別」の売上=市場規模×シェアまでも見ている。お得に予約できる、ポイントが貯まる、サイトが見やすい、といった項目での競争環境を見える化し、どの分野を攻めるか、挽回するかの戦略・施策を実行している。

企業をデータドリブンに変身させることは「個の力」でもできる。データドリブンに変身させる方法論は“ある程度”存在する。もし興味があれば、みなさんも、やってみてはいかがでしょうか?

■課題解決講演(2)

-ERP・BIツールだけでは完結しない-
経営の意志決定を高速化する「経営管理DX」の全貌

株式会社ログラス
経営管理営業部 チームリーダー
吉田 翔平氏

関西大学卒業後、不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」を運営する株式会社LIFULLに入社。配属部署にて注力事業にて営業を行うも事業撤退を経験。「経営数字」を正しく把握し改善することの重要性を痛感。その後、事業企画・経営企画・DX推進やマーケ向けサービスの営業に従事したのち、現在はログラス社にてフィールドセールスのチームリーダーに従事。

予算・見込み・実績データの収集/加工を効率化し、経営企画が「素早く・見たい切り口で分析」できる基盤を提供し、経営の意志決定のスピードと質を上げる予実管理SaaS/PaaSが「Loglass」だ。

◎経営企画部門の関係者が抱える悩み

経営陣から、経営企画部門に急ぎで分析レポートの提出依頼が来る。事業部からデータを集めて作業するわけだが、切り口の変革依頼や追加分析依頼が来たり、ファイル/バージョンが増えて複雑化/属人化していたり……。ふと気づくと加工/集計/メンテナンスで手一杯になっている。そんな悩みを持っている経営企画部門の人は多いのではないだろうか。

各部署からのデータ収集で精一杯/データの加工が大変で正確性も不安/情報が不十分なまま議論が進みいい意志決定ができない、という類似の悩みにもつながる。これらを解消するのがLoglassだ。(1)予実策定 実績・見込み (2)データ加工・分析 (3)経営会議・意志決定の3ジャンルの経営管理の悩みをテクノロジーの力で解決する。

Loglassは、(1)各所からデータが瞬時にストレスなく集められる (2)正確な経営データを素早く大量に、柔軟に扱える (3)重要指標の分析は自動化し、より細かく深い分析ができる、ための支援をする。

◎Loglassの立ち位置

基幹システムやBIツールだけでは最適な経営管理は完結しない。目的に合わせ、適切にシステムを組み合わせることが重要だ。基幹システムはデータの「収集」を、経営管理システムはデータの「統合」と「データベース(DB)化」を、BIツールはデータの「可視化」を担う。

社内に散在するデータを経営の意志決定に活用するためには、上記の4ステップが必要だ。経営管理システムであるLoglassが担うのは統合とDB化(加工/分析含む)の部分。各領域において、それぞれのアクションを得意とするシステムが存在する。課題となっている領域に合わせたシステム選定が必要だ。

一足飛びにBI化しようとすると、BIに取り込むために都度データの下処理が必要となる。結果、DB化が進まず、分析を行おうとするたびに大きな工数が発生する。Loglass導入後の業務フローは下記のスライドのように変わる。

※各機能のデモンストレーション動画あり
なお、ログラスはAI領域にも力を入れている。予実状態の概要や掘り下げ分析を「表・グラフ・AIコメント」で自動表示することが可能。並行して、科目別の内訳分析も実施できる。

導入企業のGO(株)は、事業責任者に自分の好きなタイミングで、データを好きな切り口で閲覧してもらう体制を構築することで、全社的に収益に対する意識が高まった。(株)ドームは、「数字を集めるだけで精一杯」から脱却。Loglass導入で分析や戦略に時間を割けるようになった。

テクノロジーの力で、人間を超える速さ、正確さでデータを導き出し、経営の新しい答えに辿り着く。そんな未来が訪れたとしたら、強い経済はまた必ず作れる。世界と戦える。良い景気を作ろう。

■課題解決講演(3)

クラウド×AIで深化する経理データ
経営の新たな武器とは?

株式会社マネーフォワード
グループ執行役員 経理本部 本部長
松岡 俊氏

1998年ソニー株式会社入社。 各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応PJ等に携わる。英国において約5年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019年4月より当社参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験(2020年登録)に合格。

経理は、取引データを集計して経営陣に提出する、データ駆動とは関係の深い部署だ。大量のトランザクションデータを簿記プロセスのなかで仕訳・圧縮し、財務諸表にまとめる。データの量は昨今さらに大量になっており、財務諸表は管理会計情報や連結決算情報も含むようになって一段と複雑化している。

経理は、大量のデータに触れている職種として、効率的・効果的にデータを扱う必要がある。今日は3つのポイント=経営レベルがデータドリブンな意志決定を行なうために経理ができること/データを使ったガバナンスと正確性の担保/データと経理・未来の視点(AI)について話をしていきたい。

◎経営者がデータドリブンな意志決定を行うために経理ができること

経理部門でありがちなのは、純粋な財務会計(会社全体の財務諸表)にフォーカス/経営管理に必要な情報は重視せず財務会計が締まったらあとは経営企画部門にパス/会計仕訳情報に管理に必要な情報が不足、といったことだ。

また、純粋な財務会計の決算日程短縮に努めて短縮に成功しても、財務会計が閉まった後に部門別の経営陣に情報を届けるまでに数日を要してしまうことも往々にしてある。せっかく早く会計が締まっても、社内ユーザーにスピード感をもってデータが届かない。経営者の関心は過去<現在<将来だから、これらは改めることが必要だ。

また、データの不整合や、グループ会社ごとに独自の経理組織があってグループ全体で経営者がデータを確認しにくい=経理プロセスが標準化されていない、バラバラである事例も多い。

経営者にデータドリブンな意志決定を行ってもらうために、こうした課題を解決するには、Single Source of Truthという考え方が重要だ。正しいデータは常に一つ。その信頼できる唯一の情報源で組織内の全員が意志決定するのである。

当社も2019年頃は会計周辺の給与計算、固定資産処理、経費・請求書処理が連携されておらず会計上の仕訳は100%が手作業で、データが不整合で残業やミスも多かった。しかし優先度をつけて一つ一つプロセスをクラウドに置き換えていき、現在は「マネーフォワード クラウドERP」とAPI連携により経理、労務、総務などがつながっている。上流システムと経理を連携させるシステムに徐々に変えていったのだ。現在、仕訳の95%以上が自動化され意志決定のスピードが上がっている。

受取請求書処理でも、5~6年前は費用負担部門に関する情報が不足していたため、数十部門あるにも関わらず4部門にサマリーして仕訳していた。その状態では経営管理につながる費用削減にもつながらない。「クラウド債務支払い」を導入して、現場入力/すべて電子で承認フロー/システム間の連携を行った。リアルな組織図に基づく費用負担部門を入力できるようにしたのである。

コスト面からグループ会社で散々してしまう会計システムをクラウドで一本化。グループ会社で会計システムを標準化し、グループ全体の経営状況を迅速に把握できる体制へ変革もした。親会社の経理がグループ会社の経理を受託。業務フローやルールの標準化/人的コスト削減/決算締め作業の早期化が、これによっても実現している。

経理部門内だけで仕訳に必要な情報を集められることは稀だ。現場部署との情報連携、キャッチボールが大切。この伝達をいかにスムーズにするかが決算日程短縮、インボイス対応(登録番号入手など)いずれにおいても重要である。

現在、単体業績評価PLについては、かつての第10営業日から第4営業日へと、6営業日短縮できている。また、グループ全体での取り組みにより、連結会計日程は、13営業日から第5営業日まで短縮できている。これはかなりのスピードだと考える。

◎データドリブンな経理業務の効率化、税務等コンプライアンス強化

インボイス制度の決算日程への影響は大きかった。しかし、インボイスについては徐々に対応が楽になっていくもの。過去にインプットした登録番号が複写されることで正確に番号を伝票に付与できるし、取引先マスター上の登録番号もさまざまな伝票を処理していく中でブラッシュアップされる。蓄積されたデータが無形資産になっていく。

伝票は一枚一枚経理確認、承認をしていく際に正確に判断、チェックしていくのが基本である。そして、それだけではなくさまざまなデータ分析をすることで正確性を担保しつつコントロールを強化したい。源泉税、消費税、インボイス、異常増減、赤残、二重支払、対流……こうした、リスクが高い項目をデータで抽出して重点的に見ていくと正確性が上がる。

クラウドツールで行うデータ活用、AI活用は経費精算の不正チェックにも役立つ。例えば勤怠データと経費データを突き合わせることで、有給休暇取得日の私用経費提出などを検知できる。会社がこうしたことを行っていることを周知することで、抑止力にもなる。また、「マネーフォワード クラウド経費」の利用などの取り組みにより、現在は全体伝票の6割超が電子連携で、手打ちが減ることでミス・差し戻しのリスクが減少している。

◎データドリブンな経理業務。将来について

AIが経理処理をするために必要な情報を揃えたい。先述のとおり、Single Source of Truthだ。当社では「マネーフォワード クラウド会計for GPT」を発表した。データがバラバラだとAI活用はできない。来るべきAI時代に備え、データやシステムの整備、連携を進めたい。経理システムがデジタルデータ・ドリブンになっていれば、将来AIが経理処理をする際に必要なデジタル情報がシステム内に揃っていない……という状況も避けることができるだろう。

一歩一歩行った先には先端的経営がある。

電子化の壁~クラウド化の壁~取引自動化の壁~AIの壁——。障壁や課題は多いが、DXの進捗に向けて一歩一歩進めた先に、先端的経営が実現する。まずは電子化とクラウド化の壁を越えて、経理データを武器にしたデータドリブン経営への道を歩んでいただきたい。将来、AIの壁を超えるための準備ができている経理とそうでない経理には、今後大きな差が出てくると考える。

■特別講演(2)

本当に役立つデータを創り出す、データ・ドリブン・エコノミーの歩き方
データを磨く、現場の“気づき”とデジタル社会人材(≠デジタル人材)の育成

東京大学大学院工学系研究科
教授
森川 博之氏

1987年、東京大学工学部卒。2006年、東京大学大学院教授。モノのインターネット/ビッグデータ/DX、無線通信システム、クラウドロボティクス、情報社会デザインなどの研究に従事。情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)会長、XGモバイル推進フォーラム共同代表、Beyond 5G新経営戦略センター長,総務省情報通信審議会部会長など。電子情報通信学会会長、OECDデジタル経済政策委員会副議長などを歴任。著書に『データ・ドリブン・エコノミー』『5G』など。

生産性向上と価値創出/現場起点/部分最適から全体最適へ、について話したい。
まずは客、スーパー、回収事業者の「三方良し」が実現した古紙回収の例。古紙業者は、回収BOXへの古紙の溜まり具合の情報がインターネット経由で届くようにして、回収コストを約3分の1にした。スーパーは回収BOXを置く場所を提供し、来店客へのサービスとして古紙を提供した客にポイントを付与。客は買い物ついでの利便性とポイントを得た。モノのIoTで社会的意義のあるイノベーションを起こした好例だ。

小さなことであり、言われてみれば当たり前で誰でもできるけれど、言われるまで誰も気づかない事例である。また、スペインの「笑った回数で課金する劇場」実験もなるほどと膝を打つ事例。席においたタブレットのカメラで笑った回数をカウントするのだ。沢山笑わせれば演者の収入が増える。

業務再構築=ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)は25年以上前から行われている。購買部門の請求書をなくし支払勘定課程を効率化したフォードが好例。過去と、現在のデジタル化によるBPRで違うのは、手軽に迅速に効率的にそれができることである。

DXを進めるには、業務プロセスを川下から川上までしっかり地道に見直す、俯瞰することが肝要だ。永きにわたって醸成された固定概念に囚われないことである。サプライチェーンであれば、サプライヤーデータの即時把握/顧客データの即時把握/供給チェーンの見える化によるオペレーションの迅速化、を目指したい。

「プロセスオフィス」という部門・組織が海外企業にはある。自社の業務プロセスを徹底的に見て、現場と情報共有しながら最適化、リエンジニアリングを行う。サムスン電子が米国ディスプレイ市場で行った、商品調達において量販店の購買担当者のペイン(痛み、悩み)を解決する物流最適化施策は急激なシェア拡大に大きく寄与した。

部分最適ではなく、全体をマクロに見て全体最適に持って行く。日本は生産性が米国と比べても低い。まだやるべきことが沢山ある。可能性もある。人口減少は起こるが、AIを含めたデジタルテクノロジーを使って生産性を上げたい。

そこで大切なのはデジタル人材ではなく、問題発見力や企画力、行動力を持ち主体的自発的にデジタル化や新しいことに取り組む「デジタル社会人材」だ。専門的な知識は不要。分からないことがあればデジタルに詳しい人材や公的機関、高専、大学などの専門家に聞けばいいのだ。

県内総生産で日本最下位の鳥取県。しかし実は、ブルネイ一国と同じ経済規模なのだ。宮城県の南三陸町はトンガのGDPと同じ経済規模であり、ミクロネシア連邦やパラオよりも経済規模は大きい。首長は大統領級なのだ。視点を変えれば考え方も変わるだろう。デジタルによる生産性向上余地、伸び代は大きいから利用したい。

モノが売れない時代。マネタイズできない、社会実装できない時代である。「テクノロジー企業の安請け合いによる夢の技術に踊らされてはいけない」と警鐘を鳴らす本もある。昔は既存のビジネスモデルを活かし新たな技術力によってイノベーションを起こすこと(ラディカルイノベーション)が主流だったが、現在は、既存の技術力を活かして新たなビジネスモデルを求める「ディスラプティブイノベーション」の時代なのではないか。

ただし、既存の技術力と既存のビジネスモデルを活かす「ルーティンイノベーション」も重要であることを忘れてはならない。インテル、マイクロソフト、アップルは実は地道にそれを行っている。何のために自社は存在するのか(パーパス)を見据え、事業を成功させるための方策を立て、変わらないために変わり続けている会社は米国には実は多い。

テトリスを想起してほしい。テトリスのパーツは組織、企業、テクノロジー、個人などだ。それらを回転させてつなげて価値を創る。強い想いで「巻き込み」「つないで」「パイを増やす」のである。GAFAMはそれらが非常に上手い。デジタル時代の価値創出は、さまざまなパーツを組み合わせ、つなぐ人(事業変革や変化を促す人)によってもたらされる。

例えば、飲用に適さない水を濾過するフィルターをアフリカの人々に無料で配っているLifeStraw。これがあればアフリカの人々は草木を伐採し燃やして水を蒸留する必要がない。同社はCO2排出権取引から収入を得ており、ボランティアではない、まさにテトリスのパーツを回転させて嵌め込んだような、見事なイノベーションだ。

ネットワーク、データ、デザイン、組織文化、人材、研究開発、ブランド……テトリスのパーツでもある無形資産は増加の一途だ。その特徴は独り占めできないこと。知財で守っても漏れる。となると世界の無形資産を見聞きして上手にくっつける、つなぐことができる人が価値を持つ。GAFAMはこれが上手い。

模倣、適応が上手ければ価値が獲得できる。これからはある程度の規模を持つ会社がイノベーションを主導するだろう。発明家⇒企業内研究所⇒ベンチャーキャピタル支援のスタートアップ、という50年単位のイノベーションの歴史・変遷があるが、今後はテトリス型価値獲得の大企業主導型イノベーションが増える。なぜなら規模の大きな企業は“テトリスのパーツ”をすでに自社内に多数抱えているからだ。一つのパーツだけで大きな価値につなげるのは、今後は難しい気がしている。

では先述のくっつける、つなぐ人はどういう人か。一橋大名誉教授の野中郁次郎氏はNTTドコモの「アグリガール」を絶賛しつつ、「消耗戦より機動戦が重要。知的機動戦を戦うには利他と共感力が問われる」と述べている。利他と共感と信頼でつないで巻き込み、新たな価値を創り出す。デジタルの時代だからこそ“心のきれいさ”は重要だ。与え、奉仕し、相手の利益を優先するGiverになろう。

イノベーションに対する最高の賛辞は「なぜ自分には思いつかなかったか」である(ピーター・ドラッカーの言葉)。固定概念、既成概念に縛られず、“気づく”確率を高めるには「タスク型ダイバーシティ」が効果的だ。複数の専門職で一つのことを行うチームは、イノベーションが起こりやすい/ビジョンマネジメントが大切/相互理解とコミュニケーションを重視、という特徴を持つ。

10数年前、グーグルが伝説の技術者集団だった頃、カスタマーサクセスチームのリーダーだった人は、どんな人を採用するか問われたときに「技術に疎い人」と明言した。至言だ。なお、失敗を許容し、やってみて何故ダメだったかを分析し、次につなげることも大切である。

2024年10月29日(火) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局