
2025年は、大阪・関西万博の開催など国内外からの投資と交流が活性化する年として注目をされています。一方で2025年問題と言われる「国民の5分の1が75歳以上の超高齢化社会」を迎えること(2025年問題)、デジタル化の遅れによる損失の拡大(2025年の崖)など、労働人口の減少に向けた対策、DXの推進による経営課題の克服が急務となっています。
こうした中、課題を克服する鍵として、
1.デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
2.サステナビリティ経営の強化
3.人材確保とエンゲージメントの向上(人的資本経営の実践)
4.グローバル化と地政学リスク対応
5.利益率改善とコスト構造の最適化(ROIC経営の推進)
6.顧客中心主義とデータ活用(生成AIの活用) など
果敢に変革にチャレンジをし、新たな成長の果実を獲得する企業も増えてきています。
DXの目的を明確化し、短期・中期・長期の計画を設定すること、サプライチェーン全体の透明性確保、柔軟な働き方の実践、リスクアセスメントの強化とグループ経営の強化、機械化・省力化による業務効率化、データの収集・分析の全社最適化など、経営層が主導的に変革を推進し、従業員や外部ステークホルダーとの協力を強化し積極的な投資と行動が求められています。
本カンファレンスでは「経営課題総点検 2025」をテーマに、課題認識と2025年に対策として行動すべきことについて、有識者、実践者、プロフェッショナルの講演を通じ、考察をした。
■基調講演
過去の学びを経営に活かす
-自社にとっての“総点検”を

K.I.T虎ノ門大学院教授
『経営戦略全史』著者
三谷 宏治氏
1964年大阪生まれ、福井で育つ。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントとして働く。92年INSEAD MBA修了。2003年から06年までアクセンチュア戦略グループ統括。06年からは子ども・親・教員向けの教育活動に注力。大学教授、著述家、講義・講演者として全国をとびまわり、年間1万人以上と接する。KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授の他、早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学客員教授、放課後NPOアフタースクール・NPO法人3keys 理事を務める。前田工機社外取締役。永平寺町ふるさと大使。3人娘の父。
虹の写真を見せて「何色ですか?」と問う。この2文字をどう読むか(なんしょく、なにいろ)で答えは「7色」や「虹色」と変わり、そのイロの数も国や地域でさまざま(英語圏では6色とか)だ。視点が変われば問題が変わる。視野が広がれば答えも変わる、のだ。
そもそも「経営課題」とは?と問うと、GeminiはイマイチだったがChatGPT4-oは「目標達成のために解決すべき問題点や改善点です」と回答した。これはほぼ正しいが「目標」ととはなんだろうか。経営戦略論的に言えば、目標にきちんと意味を与えたのは“経営戦略論の父”アンゾフである。「アンゾフ・マトリクス」でも知られる彼は、(1)3Sモデル (2)ギャップ分析 (3)企業戦略 (4)競争力の源泉、を提唱した。
(2)のギャップ分析で示されたように、目標(To Be)と現状(As Is)の間のギャップこそが「課題」である。つまり経営課題とは、経営目標を達成するための埋めるべきギャップなわけだ。ではその目標は正しいのだろうか?ハーバード・ビジネスス・クールのケネス・アンドルーズは目標たる戦略策定を、外部/内部環境分析⇒事業機会分析(SWOT)⇒事業戦略決定⇒実行プランニング、と定型化した。目標決めにはまず正しい内外の環境分析から、と言うことだ。
21世紀の第1クォーターの外部環境変化は、イノベーション、グローバル化だけでなく、第3~4世代AI、リスク(パンデミックと戦争)などさまざまであった。特に生成AIの頭の良さと進化スピードは衝撃的だ。ヒトにかなり近いし、GPT-4oはビデオ会話も個別教育もできる。私たちは、読解力と推論力を身につけた超汎用AIへの進化をいま目にしているのかもしれない。しかしそれ故に、生成AIはヒトの基本能力を毀損しうる。「問いを理解⇒情報収集⇒比較検討⇒メッセージ決め⇒文章化⇒長さ調整⇒回答提出」のすべてを代替しうるからだ。
ただここで大切なのは、こういった情報を収集・整理するだけでなく、自社・業界に与える影響度を考えることだ。例えば、海外大手企業ではすでに社員に対して「Copilot使用の強制」等を行い、AIを自社専用とすることでナレッジ獲得を加速させている。クローズドな社内AIによる「ナレッジマネジメントスケール」競争が始まっているのだ。
「経営戦略論」は百家争鳴である。ポジショニング派、ケイパビリティ派、コンビネーション派、イノベーション派など。そして正解などない。でもひとつ選んで使って磨こう。ここしばらくで個人的に一番面白かった経営戦略論はアダム・グラントの『ORIGINALS』だ。著者の教授・投資家としての大失敗談から始まり“1番手より2番手が成功する”など、どんどんアントレプレナーの常識を否定した。“副業的にやるからこそクリエイティブになれる&タイミングを見計らえる”とも説いている。
さて、みなさんにとっての「経営課題」とは何だろう?それは自社にとっての「埋めるべきギャップ」を示すことだ。そのために今回、「経営課題マトリクス」なるものを作ってみた。経営課題は企業・事業の2レベルで、かつ、ポジショニングとケイパビリティの2種で考えよう。まず経営者が示すべきはこの赤字部分だ。それが事業責任者への指針となり、これら4つの箱すべてが埋まっていく。

アンゾフは「21世紀は乱気流の世紀だ」と言ったが、21世紀の1Qを経てわかったのは“超・乱気流の世紀”だということだ。乱気流と生成AIに耐えるヒト・組織作りが必須だ。
少なくとも現時点で、AIができないことはいくらでもある。個別事業・サービスの戦略や企業全体の組織戦略などは、AIに尋ねても面白い答えは出してくれないし、事例もありきたり。新しくてニッチなことを企画し実現するのも生成AIは不得意だ。ヒトや企業の勝機はそこにある。そのための試行錯誤力(発想力×決める力×実行力)を持つ人材の育成に、KIT虎ノ門大学院などで今後も努めたい。
■課題解決講演(1)
これでいいのか?自社のリーダーシップ総点検
~経営幹部、管理職から若手社員まで~

株式会社レアリゼ代表取締役
NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会理事長
ビジネススクールASBS代表
真田 茂人氏
早稲田大学卒業後、リクルート、外資系金融会社、教育研修会社設立を経て、レアリゼ設立、代表取締役就任。NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会設立。理事長就任。2021年、アゴラ・サーバントリーダーシップ・ビジネススクール(ASBS)を開校。代表就任。日本を代表する大手企業、医療機関、NPO、地方など様々な分野でのリーダーシップ教育を通じて、この国が再び活力ある状態になるよう活動している。
事業には栄枯盛衰があり、そのスピードは加速している。変革する企業だけが生き残る。変革できない会社は、既存のビジネスモデルへの依存/過去の成功体験に縛られている/組織や人材が硬直化している、こうした場合が多い。トップダウン・中央集権の官僚的ヒエラルキー組織では変革は起こせない。
天才的カリスマの力で創業し成功することはあるが、組織が大きくなるほど、カリスマの力にも限界がある。カリスマも歳をとる。歳をとれば劣化し、徐々に時代とずれていく。また、2代目以降にカリスマはほどんどいない。
組織の持続性を考えると、一人ひとりがリーダーシップを発揮する自律型組織に発展することが求められる。自律とは、自分の意志をもって自ら行動を選択すること。目的や役割を踏まえ、自分の意志をもって、自ら行動を選択する人材=自律型人材が、周囲に影響を与えて、人を巻き込んで目的を実現する人材=リーダーシップ人材に昇華することが理想だ。
◎自社のリーダーシップ総点検
会社のすべての階層にリーダーシップは必要だ。まずは若手。問題意識を持ち行動する、自らコトを起こす自律型人材(先述)が大切だ。次に中堅。より大きな成果を出すために、他人を巻き込み、他人の力を借りて実現する「巻き込み力」そして「フォロワーシップ(フォロワーとしてのリーダーシップ)」が重要。メンバーがフォロワーシップを発揮することは組織に大きな影響を与える。
フォロワーシップの3つのスタンスは、常に当事者として主体的に取り組む/「自分が上司ならどうするか」を考えて行動する/「ポジション・リスペクト(上司の立場を理解し敬意を払う)」。
フォロワーシップの2つの力は、補完力と提起力だ。補完力とは、リーダーの仕事を代行・サポートし、リーダーが示すビジョンを翻訳し具体化する力。提起力とは、自分なりに考えを持ち、健全な質問や意見・提案をする力である。問題提起にあたっては「アサーション」が必要。これは、自分の気持ちや考えを相手に伝え、相手のことも配慮し、自分も相手も大切にするコミュニケーション手法のこと。
管理職は、「リーダーとしてのリーダーシップ」すなわち管理型ではない、人の力を引き出すリーダーシップを発揮したい。目標だけでなく目的を明確にし、人は論理よりも欲求や感情で動くことを理解するのだ。また、「フォロワーとしてのリーダーシップ」、参謀的リーダーシップも重要。先述の補完力や提起力を発揮することで、経営幹部への準備ともなる。
最後に経営幹部のリーダーシップ。「経営幹部として成し遂げたいビジョンはあるか」確認したい。キャリアを重ねるごとに、~たいが減り、~べきが増えていないだろうか。また「時代に適合したリーダーシップか」も検証を。かつての成長期と、これからのVUCA時代のリーダーシップは異なる。

今後は、強く、飛び抜けた能力のリーダーを育成するのではなく、多様な人を活かすリーダーを育成しなければならない。
■特別講演(1)
起業、再生、危機、復活 U-NEXTの今までと、これから…

株式会社U-NEXT HOLDINGS
代表取締役社長CEO
宇野 康秀氏
1963年生まれ、大阪府出身。88年、明治学院大学を卒業後、株式会社リクルートコスモス(現 株式会社コスモスイニシア)に入社。89年、株式会社インテリジェンス(現 パーソルキャリア株式会社)を設立。98年、創業者である父から株式会社大阪有線放送社(後の株式会社USEN)を受け継ぎ、代表取締役に就任。その後、2010年に株式会社USENから株式会社U-NEXTを分社化し、代表取締役社長に就任。17年には、株式会社USENと株式会社U-NEXTを経営統合し、株式会社USEN-NEXT HOLDINGS(現 株式会社U-NEXT HOLDINGS)を発足、代表取締役社長CEOに就任し、現在に至る。
当社の売上高は3268億円、営業利益は291億円で、8年前のグループ統合以来8期連続で増収増益を達成している。国内拠点数は150拠点で従業員数は5344名、グループ全体の契約件数は約600万件だ(すべて2024年8月時点のデータ/売上は2018年8月期の8ヵ月決算値を12ヵ月換算)。
過去の失敗・経験から学びつつ1兆円企業を目指している。経営者人生は約35年になるが、起業から再生、危機を乗り越えて51歳でU-NEXTを上場させ復活を果たした。そして54歳でUSEN&U-NEXT GROUPを発足させることができた。
◎コンテンツ配信事業U-NEXTの今まで
U-NEXTの有料会員数は2025年の第1クォーターで450万人を突破、国内マーケットシェアではNetflixに次ぐ2位だ。なお、23年にはTBS、テレビ東京、日本経済新聞系の旧Paraviを統合している。
映像配信サービスはすでに四半世紀にわたり実施してきており、映画やアニメではNo.1のカバレッジを誇る。競合のNetflixは放送局に近しい考え方で、オリジナルのドラマを作りそのコンテンツで集客をするのが戦略の柱。しかし、U-NEXTはプラットフォーマーという立場で、既に作品化されたものを百貨店的に取り揃え、豊富な品揃えでユーザーに届けている。
マーケティングミックスは、(1)地上波 (2)デジタル広告 (3)流通・小売・映画館の三位一体、唯一無二の手法で行っている。(1)ではTBS、テレビ東京の放送波を活用した告知活動、(2)ではWebマーケティングのナレッジを活用し、国内最大級のデジタル広告を展開、(3)では日本における最大手の小売り流通チェーンに加え、全国の映画館チェーンと連携したプロモーションを展開している。旧Paraviの統合でTBSのドラマ、コンテンツを独占的に扱えるようになったのは、加入促進面での効果も大きい。
◎コンテンツ配信事業U-NEXTのこれから
U-NEXTのこれからの戦略は、これまでの基本戦略=圧倒的なカバレッジに加えて、(1) オールインワン・エンターテインメント戦略 (2)ONLY ON戦略 を取る。

社内には各ジャンルのコンテンツに詳しい目利きがいる。(1)では従来からの映画・ドラマに加えて、音楽ライブやスポーツコンテンツ(サッカー、ゴルフ、格闘技、テニスなど)の強化、書籍・コミック、宝塚で上演されている演劇などを配信する。(2)では、IP創出への積極投資を行い、すでに100作品以上を制作。海外スタジオとのパートナーシップも強化する(ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが運営する「Max」など)。競合にはない独自コンテンツをさらに増やしていきたい。
■課題解決講演(2)
経営の想いと情報浸透がもたらす、
組織と従業員エンゲージメント最大化

株式会社ヤプリ
事業推進室 EXプロジェクトリーダー
古屋 陽介氏
独立系SIerにてSEとしてキャリアをスタート。2011年に株式会社オプトへ入社。ジョイントベンチャーにて広告配信プラットフォーム事業の立ち上げやアライアンス先との協業事業推進などに従事。2020年より株式会社ヤプリへ入社。現在は「Yappli」のプロダクトオーナーと「Yappli UNITE」のプロジェクトリーダーを務める。
当社は「デジタルを簡単に、社会を便利に mobile tech for all」というミッションを掲げ、ノーコードのアプリ開発プラットフォームyappliを展開している。自社アプリで企業のさまざまなビジネス課題を解決し、モバイルDXを加速させる。
Yappliで作られたアプリは2024年までに累計2億ダウンロードを突破した。これは、Yappli UNITEによって従業員アプリにも広がったことが大きい。アプリは顧客エンゲージメント向上のために店舗やECで活用されてきたが、昨今は従業員エンゲージメント向上のために社員向けに活用されることも多い。Yappli UNITEは後者のためのサービスである。
ミッション、ビジョン、バリューを掲げる経営者の想いは、従業員に届いているだろうか?働き方の多様化が進む中で、情報浸透・共感の獲得に苦戦している会社は少なくない。
経営者側は、経営方針・理念が浸透しない/社内ポータルがあるのに見てもらえない/人材育成して従業員を定着させたい/一体感と協業を醸成する組織にしたい。一方、従業員側は、会社の方向性がわからない/色々な情報があって探せない、見づらい/学ぶ環境がない、成長実感がない/誰が何をやっているかわからない、という課題を持っている。
そんな中、従業員エンゲージメントが重要視されているのは、圧倒的な人材不足/働き方の多様化/人的資本経営の実践、という背景がある。従業員エンゲージメントが高まっていると、自己効力感を感じる/前向きに仕事に取り組める/仕事の意義を感じる/新しいことにチャレンジできる/成長を感じる/この組織で何かできると思う、といったマインドが醸成される。
従業員エンゲージメントの高低は、離職率や生産性の高低に大きく影響する。Yappli UNITEでさまざまな角度からのメッセージに頻繁に触れることによって、価値観を自然に浸透させることができる。
※ANAグループ、オルビス、鹿島建設、TBSテレビ、三菱UFJ信託銀行の事例紹介あり
例えば、アプリ導入の効用であるインターナルコミュニケーション促進やリスキリングには、下記スライドのようなコンテンツ、メニューが考えられる。


閲覧状況などアプリ内での行動を把握したり、サーベイ・分析で組織の状態を把握することも可能だ。従業員が能動的に情報を取得する仕組みを作り、従業員の日々の行動を計測するというPDCAを回していくことが、従業員エンゲージメントの向上につながる。
■課題解決講演(3)
AIとランサムウェア対策を搭載した
最新の企業向けDropboxとは?

Dropbox Japan 株式会社
DX戦略室 室長
矢作 一樹氏
Dropboxが提供するコラボレーションプラットフォームは、課題解決のみならず、コスト削減やセキュリティ対策、現場の生産性と品質向上をもたらすことができる可能性を秘めています。本セッションではDropboxが提供するソリューションがどのようにDXやAI活用を成功に導くかをご紹介します。
世界のDropboxユーザーは5億人、導入企業数は50万社以上。日本でも多くの企業に採用いただいており、さまざまな製品群を持つ。
ファイルサーバーやNAS※、そしてクラウドストレージを導入しても“本来の使い方”として活用できていない企業が多く見受けられる。よってまずは、取り組みやすい簡単なDXの例の紹介から。
(1)コピー機連携 複合機のパネルに配置されているアプリを使ってクラウド経由でDropboxと連携し、フォルダからのプリントとスキャンを可能にすると、容易にファイルの共有ができる。既に導入している製品を組み合わせ連携させるだけで、業務効率が格段に上がる。
※NAS=ネットワーク(LAN)に接続できるハードディスク(HDD)やSSDなどの記憶装置
(2)FAX連携 複合機からDropboxの共有フォルダにファクスを転送すれば、プレビュー&コメント機能でファクス文書について情報交換ができる。ファクスのペーパーレス化による、場所を問わない受注データの確認とコミュニケーション改善にDropboxが貢献する。
(3)クラウドホワイトボード Dropbox Paper(無料で付属する機能)を使えば、異なる場所や時間で随時最新の資料共有や効率的なコミュニケーションができるため、協力会社や他部署との共同プロジェクトを素早く進めることができる。動画や画像も貼り付けられる。
また、複数の担当者や社外関係者とのやりとりが特に多い設計系やメディア関連の仕事では「プレビューとコメント」機能が役に立つ。DWG※ファイル含む約200種類の拡張子のプレビューをサポートしているため、ファイルを見るためのアプリを持っていない人のためにPDF変換をせずに、iPadで随時図面・資料の確認やコメントでの会話が可能になる。こうしたことは、ファイルサーバーやNAS、オンプレミス・システム内での運用ではできない。
※DWG=CAD(コンピューター支援設計)ソフト「AutoCAD」の標準的なファイル形式
ツール間の移動をする必要がなくなり、わずかな時間の積み重ねが、大きな時間短縮・効率化につながる。使う従業員数が多ければ、その効果はさらに拡大する。また、DropboxはファイルサーバーやNASと同じ見た目で使える(boxやOne Driveでもこれは同様)。普段馴染みのある操作方法で活用することが、新しいソリューション導入・運用の際には重要だ。
Dropboxは、ファイルサーバーやNASと同じような運用ができる設計のクラウドストレージで、それらと同等のアクセス権が付与できるのが特徴だ。第1階層へのアクセス権が下位の全てのフォルダとファイルに踏襲されてしまう、ウォーターフォール型設計の他社のクラウドストレージではこれができない。DropboxはファイルサーバーやNASの代替として活用でき、大容量ファイルの外部転送も可能なため、従来システムからの移行後の実際の運用において優位性が高い。
各企業は現状、グーグルやマイクロソフトのアプリケーション、各種ビジネスチャット、キントーンなどの顧客管理システム、そしてファイルシステム(FS)やNASを使っている。これらとクラウドストレージの「連携」が非常に重要だ。連携して使わなければ生産性向上面でのストレージ導入の意味はないと言っていい。API連携のコール数(容量)にも注目してほしい。Dropboxは億の単位で十分に担保。また、Microsoft365(office/Teams/Copilot)との連携も取りやすい仕様になっている。
ランサムウェアの疑いがある挙動を検知してアラートを通知したり、当該アカウントの停止や暗号化される前の状態に巻き戻し機能でデータを復元することもできる(無料で機能を標準装備)。復元・巻き戻し機能は、データを誤って修正、移動、全消去した場合にも使える。災害時などにおいても安心だ。
機密データの検知、分類、管理、および保護の機能も持つ。例えば、機密情報を含むファイルやフォルダがチーム外で共有された場合、管理者に情報漏洩防止アラートが電子メールで送信される。
◎データ分析とAIで進化するビジネス情報活用
Dropbox DecSendは外部共有に特化したツール。ドキュメントや動画を高度なセキュリティで「共有、追跡、分析」できる。
例えばパワーポイントの資料を共有した際、閲覧者の一覧および、閲覧者がどのスライドを閲覧したのか、その所要時間までを含めて確認することが可能だ。資料のダウンロード時も一覧上に明示される。アクセスマップによる地理的な確認を行い、意図しない場所からのアクセスがされていないかも確認できる。


訪問者が動画のどの部分を視聴したか、スキップしたか、再視聴したかなどを確認することも可能。複数のバージョンのビデオの視聴状況を集計して、訪問者がどこで視聴を中止する傾向があるかを確認し、コンテンツの最適化に活用することもできる。
現在米国で提供開始されているDropbox Dashは、複数のビジネスアプリを横断して検索・アクセスができるAI搭載型ユニバーサル検索ツール。分散化したクラウドアプリやAIツールに散らばった情報を1か所から検索できるようにすることで、ナレッジワーカーが情報探しに費やす膨大な時間を削減する。また、強力なコンテンツアクセス制御機能により、権限がある人のみに情報が表示されるセキュリティも確保されている。例えば、「経費申請の手順を教えて」というような、社内でしか公開されていない情報からも、ナレッジを得ることができる。
■特別講演(2)
日本経済と企業経営の根本課題
~変化の時代に求められる、バランス感覚とリーダーの覚悟~

経済学者
慶應義塾大学 名誉教授
竹中 平蔵氏
1951年、和歌山県生まれ。慶應義塾大学名誉教授。博士(経済学)。一橋大学経済学部卒業後、73年日本開発銀行入行、81年に退職後、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを務める。01年、小泉内閣の経済財政政策担当大臣就任を皮切りに金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣などを歴任。04年参議院議員に当選。06年9月、参議院議員を辞職し政界を引退。ほか公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、SBIホールディングス㈱独立社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを兼職。
今、私たちは、根本的な仕組みや制度の変革・変更を求められている。大きなスケールの動きが世界と日本の経済で起こっている。そして、仕組みや制度を変えられるのは結局のところ「リーダー」だ。
昨年ノーベル経済学賞を受賞したMITのアセモグル教授は“制度学派”として知られる。その彼が「朝鮮半島の北と南」「メキシコと米国の国境の2つのレガノスという同名の町」をよく引合いに出す。ほぼ同じ場所に位置するこれらの国・地域の経済格差は、ひとえに「制度」によるものだ。また、リモートワークも然りで、従来の時間基準ではなく制度を変えて成果での評価がなされなければならない。
デジタルやAIが入ってくる時代においては、特に「制度・仕組み」を変えることがリーダーの重要な仕事になる。
先日参加したスイスのダボス会議での話題は「AIとトランプ」一色だった。急速な進歩を遂げ景色を変えつつあるAIと、国や企業はこれからどのようにつきあって行けばいいのか。米国のトランプ大統領の就任については、欧州各国の首脳から“Wake Up”という言葉が発せられていた。欧州内の選挙でも米国でも日本でも、従来の制度・規制からの急激かつ大きな変革が起こっている。規制が多く政府や企業の決定、動きが遅い私たち日本も、トランプ氏の大統領就任や各国の選挙の動向は“Wake Up Call”として捉えなければならない。
本来、開かれた包括的な制度、誰もがビジネスや政治に参画するチャンスを得られる制度が重要だ。規制緩和で経済的な自由を得て、法律・ガバナンスが整っている世界が理想である。その一方、中国や米国の中央部のように、「収奪されている世界」も存在し、日本も含めて収奪されている感が広がり、政治が不安定になっている。欧州で極右・極左政党が支持を広げ、従来の制度そのものを否定する動きがある。6大政党が得票率を減らした日本もその流れの中にある。トランプ大統領が行いつつあることは、こうした包括的な制度をさらに破壊する可能性がある。
今年の世界の成長率は、トランプショックがなければ、恐らく昨年とあまり変わらないだろう。日本の成長率は少し上がる可能性がある。中国は政治体制の変更やコロナ対策の失敗による民衆の不信などで大きな成長は望めない。そんな中、世界の経済は新しいシステムに向かっている。体制移行・トランジションの最中にある。体制移行の時代は急速な技術革新の時代でもあり、技術体系の大きな変革があり、国・企業・個人それぞれが、技術革新に対応したか否かで大きな差が付く。
世界経済の成長率は今後3%前後と低い見通しだが、日本企業にはささやかな追い風がある。その一つが半導体産業だ。米国・中国対立の中で、潜在能力のある日本の役割は大きい。根本的な制度を変えることができるかどうか、が日本に問われる。例えば政党法がない、外国人労働者つまり移民管理の法律や制度が整っていないことは大きな問題だ。先述の「労働を時間で評価する」旧態依然とした制度も、アウトカムで評価するように改める議論を進める必要がある。
石破総理は新たに「防災庁」を作ると言っているが、もっと本質的・根本的な行政改革を行う必要がある。日本は約20年ごとに大きな行政改革をやってきたが、直近の24年間は「こども家庭庁」などいくつかのハコを作ったのみで、本質的な行革が行われていない。石破総理は粘り強さを発揮し、政策を勉強し、人を育て、政治主導の行政改革を実行するべきだ。
日々の細かな努力や改善はもちろん必要だ。しかしそれをやりながら、それを超えて今は大きな「仕組み」を変えていく時代だ。トランプ大統領就任のWake Up Callが鳴り響く中、仕組みや制度を大胆に変えることが政府や企業のリーダーに求められている。
2025年1月29日(水) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局

