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「ヒカキンさえいなければ」で自己嫌悪。親の葛藤を痛感する

まあ、半分は自分でできているわけですし

2019/01/17

 兄弟のいる環境で、生身の刺激が目の前にあるところでおのおの別のゲームに没頭することほど、もったいないことはないんじゃないかと思ったりもします。一緒にヒカキンの動画を観ておきながらどうなのかとも思うけど、ネット動画に時間を使うほどに、親子や兄弟の会話が削れることを気にしてしまう。親と子が、一緒に語らう時間が減っていく。

いま痛感する、親の葛藤

 思い返せば、私も子どものころザ・ドリフターズの「8時だョ!全員集合」や「オレたちひょうきん族」を観て育つ過程で、中学受験に悪影響だからと父親にテレビを取り上げられましたわ。あったあった。あー、あれと同じ感覚だわ。取り上げられても、他のことに興味を奪われるだけなのにね。ハマりすぎて、ゲームウォッチを捨てられた。塾をサボってはゲームセンターに行ってバレて叱られた。しかし、父親としての私がやったことは、かつて私の親父が私にしたときと同じように「時間決めて動画観ろ」「ゲームは控えろ」「宿題終わったら遊んでいいぞ」の定番プレイなのでありました。

©iStock.com

 自己嫌悪。いやいや、これは親として、必要なことだから。親の葛藤。なぜなら、自分の子供のころの、写し鏡のようだから。そして、親の目を盗んで動画を観る長男。待てい待てい。そこに座れ、まず今日の授業を復習してからにしろ。長男の宿題を家内が見守り、次男の勉強を私が面倒見ている間に、いつの間にか動画でクレヨンしんちゃんを観ている三男。おいやめろ。三男がのんびり寝転んで動画を観ているのを知って、それはずるいと勉強どころではなくなる長男と次男。違う。違うんだ、三男はまだ年中さんで、お前らは小学生なんだから年齢が違うからやるべきことが違うんだよ。

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 先に宿題を終えた切れ者次男を見て、ブルドーザー長男が怒る。待てい。先に終わった奴が偉いんだよ。お前も遊びたければ早く終わらせろ。でも次男はすぐに終わって羨ましい。分かった、じゃあ次男にも勉強の課題を出してやるから長男は怒りを納めろ。そうすると、ゴールポストが動いて次男が怒る。宿題は終わったはずじゃないか。さっさと終わらせた俺が次々と課題を増やされるのは心外だと共産党員みたいなことを言う。そりゃそうだ……。

ヒカキンさえいなければ、我が家には再び平和が訪れるのだ

 そうか。それもこれも、みんなヒカキンを観たいからいけないのだ。ヒカキンさえいなければ、我が家には再び平和が訪れるのだ。おのれ、ヒカキンめ品のない顔芸ばかりしおって。この心の動きが……まさに私の親父に「今後、ひょうきん族は禁止」と言われて涙目になった小学生時代の自分とオーバーラップしてしまうわけであります。ヤバイ。かといって「ヒカキンは駄目だけどマックスむらいならいいよ」とは口が裂けても言えない。水は、常に低きに流れる。親として、逡巡し、悩み、蓋を開けたら私がかつて育った山本家とさしてかわらない父親像に立ち返ってしまうのは何故でしょうか。

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 そんな親父は、祖父になって多大なお年玉を三兄弟にくれたうえで、先日「テレビタックル」でビートたけしと並んで私が出演していたのを観て、「お前もひょうきん族に出るようになったか」としみじみ述懐していました。ひょうきん族じゃねえだろ。ボケてんじゃねーよジジイ。しかし血は争えず、三兄弟はサンドウィッチマンやダウンタウンが好きで、年末はずっと「笑ってはいけない」を観て喜んでおりました。いまも、録画を観てゲヘゲヘ笑っております。

 このような調子で、血は続いていくのでしょうか。まことに不本意ながら。

「ヒカキンさえいなければ」で自己嫌悪。親の葛藤を痛感する

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