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前向きな意味で新しい定跡が出てくるか

――そうやって進歩が続くと、将棋はいずれコンピュータによって完全解析されるんでしょうか。

渡辺 将棋の場合は局面の数が多すぎるので、完全解析は数学的に無理だったはずです。ただ、「ある程度の結論」に近いものはいずれ出るのかもしれません。例えば、現在コンピュータ将棋では先手の勝率が55%ぐらいですが、先手がほぼ必勝になるのか、逆に後手がほぼ必勝なのか。それとも、千日手(引き分け)になるのか……。

――今後、コンピュータ発の振り飛車の新しい囲いだったり、定跡だったりが出てくるかもしれませんね。

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渡辺 出てくるかもしれないですけど、前向きな意味で出るか後ろ向きで出るか、何とも言えません。

 

――「後ろ向き」というのは?

渡辺 後ろ向きというのは、古くからある戦法でもコンピュータに「終わった」と判断されて淘汰されてしまう可能性も正直あると思っています。例えば、「美濃囲いは使えない」という結論になると、振り飛車のアイデンティティ自体を疑わなきゃいけなくなりますよね。もちろん、前向きに創造的な手ができるかもしれないですし、そうであることを自分は願っていますけれど。

――最近はプロ棋士の対局で、初手でいきなり三筋に飛車を振る動きが流行しています。

渡辺 ああ、7八飛車、ありますね。「振り飛車が実は先手必勝でした」という答えが出たら、7八飛車が最善手である可能性は高いと思います。振り飛車の中でも最短距離で突っ走っていく手順ですよね。

満遍なくやっている余裕がない

――ハニーワッフルはどこに飛車を振ることが一番多いですか。

渡辺 三間飛車が割と多いんですけど、それが真理に届いている感じはしません。ただ、やっぱり初手から動けますし、振りやすいのは確かです。

 今年の選手権では、後手番ではすべて四間飛車を指しました。やっぱり先手と後手でも最適な戦略は違っていそうですね。コンピュータ将棋的には後手番のゴキゲン中飛車が悪いという「定説」になっているんですけど、それも本当のところはどうなんでしょうか。どれも深く追求したいところですけど、満遍なくやっている余裕がないというのが実情です。

 

――例えば三間飛車であったり、四間飛車であったり、その都度課題の戦型を決めて、特定の局面から試行を重ねるということでしょうか。

渡辺 そうですね。1つでも得意な振り飛車の戦型があれば、そこに決め打ちして、局面を誘導しちゃうのがある種の勝ちパターンですよね。居飛車側からすると、わざわざ評価値が下がる振り飛車の戦い方を予想しません。こんなことをやってくるわけがない。候補手に入ってこない。でも、こっちはそれを知っていて、一般のソフトでは評価値はどんどん下がっていくんだけれども、振り飛車ソフト的にはどんどん数値が上がっていくみたいな試合運びができると思っています。それを何パターンか構築できれば、振り飛車の理想的なソフトができなくても、勝負にはなるという算段はあります。