©HAKUTO

5%でも可能性があるのなら、90%まで上げることはできる

 IT界の巨人グーグルがスポンサーを務め、人類史上初の民間による月面無人探査を目指す国際レース「Google Lunar XPRIZE」。民間資本で月面に探査機(ローバー)を送り込み、最初に所定のミッションをクリアしたチームが優勝賞金2000万ドル(20億円超)を手にするというビッグレースで、今年1月末、ファイナリストの5チームが発表された。

 そのうちの1チームに選ばれたのが、日本の「HAKUTO(以下ハクト)」。「月の白うさぎ」を意味するハクトを率いる袴田武史(37)は、安堵の表情を見せた。

「5%でも可能性があるのなら、90%まで上げることはできると信じて7年間、やってきました。ようやく優勝を狙えるところまで来ましたね」

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50億円以上必要だったが、集まったのは100万円弱

 子どもの頃、『スター・ウォーズ』を観て宇宙に魅せられた袴田は、ジョージア工科大学の大学院に進学。民間による宇宙開発の熱気を肌で感じ、日本に帰国後も宇宙開発に携わる道を探していた。

 転機が訪れたのは、2010年。知人を介してこのレースに参加する欧州のチームと知り合い、日本で支部を立ち上げることになったのだ。袴田はその際に自ら手を挙げて、日本側の代表に就任した。

ハクトが開発した月面探査機 ©HAKUTO

 ここからが、苦難の道程だった。当初の計画では、ローバーと月面着陸船の開発に打ち上げコストも含めて50億円以上が必要だったが、2年経って集まったのは100万円弱。さらに13年には、欧州チームが離脱した。ここで袴田は日本チーム単独で月を目指すことを決め、会社を辞めてハクトに専念することに。

 とはいえ、なんのあてもなく、実はこの時、袴田の脳裏には「解散」の文字もよぎっていたという。しかし、思わぬ展開で事態が好転する。13年夏、大会主催者が突如、各チームの進捗状況を評価する中間賞の創設を発表。もともと、ローバーの世界的研究者、東北大学の吉田和哉教授の協力を得てローバーの開発にあたっていたハクトは、15年に中間賞を受賞し、賞金50万ドルを手にした。

「中間賞の受賞で、一気に風向きが変わりました」

 受賞を聞きつけメディアが殺到し、複数の企業とのスポンサー契約にもつながった。

 潤沢な資金とサポートを得たハクトは、急加速。ついに今年12月28日、インドのチームに運賃を支払って、彼らが開発する月面着陸船に相乗りする形で、月にローバーを送り込むことになった。

「月についたら、インドチームと、よーいどん! の競争になりますね」

 ハクトはその様子を生中継する計画を立てている。手に汗握る月面での公開レース。勝算は? と尋ねると、袴田は「ローバーの性能は、どこにも負けていません。勝てると思っています」と微笑んだ。

はかまだたけし/1979年生まれ。外資系コンサルティング会社を経て、13年にハクトの運営母体となるベンチャー「ispace」創業。「人類が宇宙に生活圏を築いていく世界を作る」ことを目標に掲げ、レース後も月面資源開発に挑む。三半規管が弱いため、今のところ宇宙に行く予定はない。