タックルに壮絶なボール争奪戦…… 高危険度の競技であることは事実
「コンタクトスポーツ」という用語がある。つまり競技者同士の“接触”を伴う競技だ。接触すれば当然衝撃が加わり、打ちどころが悪ければケガをする。筆者はこれまで、ラグビーはコンタクトスポーツだと思っていた。ところが鈴木医師によると「ちょっと違う」というのだ。
「たしかにラグビーは、広義で見ればコンタクトスポーツの範疇にありますが、実際にはさらにその先の“コリジョンスポーツ”、つまり衝突を前提とした競技、という部類に入ります。一般的なコンタクトスポーツ以上にケガをする頻度が高く、またケガを負った時の重症化の危険性も高い競技と言えます」
タックルやブレークダウンの中でのボールの争奪戦、ハイパントキックを獲るために競り合うシーンなど、大ケガにつながりかねない場面が連続するラグビーは、アメリカンフットボールや柔道と並んで、他の競技とは比較にならない高危険度の競技であることは事実だ。国内の高校ラグビーだけを見ても、多い年で10例ほどの重症例(頸髄損傷や頭部外傷)が発生しているという。
しかし、鈴木医師はこうも言う。
「高校生より遥かに衝撃の強いトップリーグの選手が、頸髄損傷などの大ケガをすることはきわめてまれです。また、同じ高校生でも、強豪チームの選手はケガをしにくい。つまり、スキルの低い選手ほどケガをしやすいのです」
ここで、冒頭の鈴木医師の「小さいうちから始めてほしい」という発言が浮上する。
医師が言う「ラグビーは小さいうちから始めるべき」理由
現在の日本では、一部の中学校でラグビー部があるところもあるが、本格的に部活動として始まるのは高校から。しかし鈴木医師によると、ケガをしやすいのは、高校で初めてラグビーを始める選手だという。
「昔と違って、いまの高校ラグビーは技術も高度化しており、初心者が簡単に活躍できる世界ではなくなっています。特に強豪校になると選手の大半が子どもの頃からの地域のラグビースクールの出身者で占められている。明らかにスキルの差があります」
では、子どもの頃からラグビースクールに入るとどんなことをするのだろう。
「幼稚園児や小学生では“タグラグビー”といって、タックルなど危険を伴わないラグビーからスタートするので、ルールと競技の面白さを安全な状況で知ることができます。中学生あたりから一般的なラグビーに移行していきますが、柔道が必ず“受け身”から始まるように、ラグビースクールでは、ケガをしないための技術を徹底して教え込まれます。タックルする時の首を入れる向きや角度、タックルを受けた時の安全な倒れ方などのコンタクトスキルを、これでもか、というほど繰り返して身に付ける。もちろん、フィジカル面での強化も図られるので、高校で始めた選手とは大きな差が付くことになるのです」