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ラグビー恒例“魔法の水”は廃止 強化された怪我対策

 もちろん、高校からラグビーを始めたからといって必ずケガをするわけではない。指導者がきちんと“ケガをしないプレー”を教えるチームであればケガのリスクは低いのだが、ここにラグビーという競技のネックもある。“人数”の問題だ。

 ご存知のように、ラグビーは1チーム15人の選手がフィールドに出る。昔はひと試合を同じメンバーで戦い抜くのが当たり前、という時代もあったが、いまは途中交代もあるので、控えも含めて22~23人程度の選手が必要となる。選手の数に余裕のある強豪校ならいいが、部員確保に悩む公立校などは、簡単にメンバーが集まらない。正規部員では足りずに、試合の時だけ別の部から選手を借りてくる――というケースもある。

「サッカーがうまいとか、足が速いといった要素は、確かにラグビーでも役に立つ場面はありますが、ケガをするメカニズムにおいて、ラグビーはまったく別物と考えたほうがいい。他の競技で少し自信のある選手がいきなりラグビーで危険なプレーをすると、大ケガにつながってしまうことがある」

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 もちろん、競技としてのケガ防止策は強化されている。脳震盪一つとってもそうだ。

 いま、試合中に脳震盪を疑われる状況になると、いったんフィールドから出て医師のアセスメントを受けて、OKが出なければ試合には復帰できない。かつては顔にやかんの水をかけるだけでゲームに復帰させていたが、今ではそんなことはしない。

「“魔法の水”なんて言っていましたが、医学的にはまったく根拠のない行為。公式戦では許されないし、もしいま練習や練習試合でそんなことをやる指導者がいたら、そのチームに所属し続けるのは危険です」

ウェールズvs南アフリカ戦でフィールドから出て医師のアセスメントを受ける選手 ©getty

「わざと相手に危害を加えることはしない」が強いスポーツ

 ラグビーは、ケガをしやすい競技ではあるが、きちんとしたスキルを身に付けていればそのリスクを低くできる――。その前提には、「わざと相手に危害を加えることはしない」という紳士協定が強固だという点がある。冒頭で触れた“人格形成”がここにつながる。

「相手に対して、あるいは自分自身にとっても、危険なプレーをして得をすることは一つもない。そして、ラグビーの根底には、自分を犠牲にしてチームの勝利をつかみ取る、という精神がある。かつてラグビーを経験したお父さんたちが、わが子にもラグビーを勧めるのは、そうした人格形成の側面に期待しているところは大きいと思います」

試合後のラグビー日本代表チーム ©getty

 人格形成を考えるならなおのこと、小さいうちから始めたほうがいい。全国各地にラグビースクールはある。体験会なども開かれているので、一度覗いてみてはどうだろう。

 一人ひとりがどのようにしてケガを防いでいるのか、そしてどのように人格形成されていったのか――を頭の片隅に置きながら、今夜のイングランド対南アフリカ戦を観戦してみてはどうでしょう。