千葉さんはこう答える。「昔から続いてきたお店の中には、後継者がいなくて店を続けられないところもありました。空き店舗にはしたくないと考えていたところ、外国人がそこに新しく店を開いてくれたんです」。

ちなみに千葉さんによると、海産物が並ぶ有名な光景は年末の一時期だけで、ふだんは全く別のものを売っているお店が、その時期だけ業態を変えるそうである。取材に応じてくれた靴店では、年末にカマボコを売るために、毎年、営業許可を取っているとのことだった。

この場所でケバブ店を経営する、トルコ出身のオスカルさんにも話を聞いた。

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元々は海苔を売る店があった跡地に、4年前に店をオープンした。取材に訪れた時にはウズベキスタンからの留学生グループがボリュームたっぷりのケバブサンドを頬張っていた。かつては別の場所でも店を開いていたオスカルさんは、アメ横に店を開いた理由について、秋葉原や浅草、銀座といった観光地に近く外国人が集まりやすいこと、スパイスをはじめとする食材がそろいやすいことをあげた。

客のほぼ100%が外国人という“ディープ”な店も

さらに“ディープ”な世界があると聞き、向かった先は商店街にあるビルの地下。「地下食品街」と書かれた看板をくぐると、そこには不思議な空間が広がっていた。

見慣れない食材に外国語ばかりが書かれた値札。どうやって食べるのかわからない、生の肉や野菜、さらにはスパイスが複雑に混じり合った香りに、飛び交う外国語。階段を降りただけなのに、自分はどこか別の国に来てしまったのではないかという錯覚に陥る。

取材した店の1つは、中国やタイなどアジア圏のものを中心に、野菜や果物の他、調味料やお菓子、即席麺などを輸入し販売していた。開業当初は日本人向けの野菜や魚が中心で、海外から輸入した香辛料の販売は多くなかったそうだ。だが、少量でも海外産のものがあるという情報が口コミで日本に住む外国人の間に広まり、15年ほど前に、外国の食材を売る店へと業態を変更したそうだ。

今では客のほぼ100パーセントが、日本で暮らす外国人になった。品ぞろえも彼らのニーズに合うように工夫を重ねた結果、すべてが外国産、あるいは日本国内で生産された外国人向けの食材になった。

※データや人物の肩書き、年齢、取材現場の状況などはすべて取材時のものです。