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2019/12/14

同業者・野木亜紀子もリアルタイムでSNS発信

 支えたのはNHKだけではなかった。SNSでは多くのファンが毎週日曜の夜に声援を送り、作品の背景に関する知識を持ち寄るように各エピソードの逸話が語られ共有された。それはまるで45分の放送が毎回ばらまく大量の歴史情報を、SNSがジグソーパズルのように組み上げていくような集合知の光景だった。

 そしてSNSは同じクリエイターたちからの賛辞も可視化した。名前を挙げはじめると文字数がいくらあっても足りなくなるが、名だたる小説家や漫画家たちに加えて、宮藤官九郎と並んで当代随一の脚本家と称されることの多い野木亜紀子もまたこのドラマの行方について熱い思いをリアルタイムで書き連ねた1人だった。

野木亜紀子


『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』と高視聴率のヒット作が続いた後、野木亜紀子はまるでSNSの熱狂に背を向けるように、『獣になれない私たち』『フェイクニュース』という複雑な、陰影の深い脚本を発表する。あえて困難にいどんだ『いだてん』の宮藤官九郎と、その姿勢はどこかで重なっているように見えた。

天野アキを演じた「女優・創作あーちすと」のん

 宮藤官九郎の脚本は、時にそれを演じる役者にも変化をもたらす。かつて能年玲奈と名乗っていた主演女優は、今は「のん」という名で音楽活動や舞台に活動を広げている。

 僕は彼女の一ファンとして舞台やライブに時折足を運ぶのだが、26歳になった彼女は、子どもが成長するたびに語彙が増え、やがて外国語までも学んで使いこなしはじめるように、いくつもの演技と声を使い分けられる表現者に成長している。でもその一方で、彼女は今でもふと言葉に詰まるとき、しばらく宙を見上げたあと、まるで天野アキのようにゆっくりと話し始める時がある。

『あまちゃん』でヒロイン・天野アキを演じた女優・のん ©️文藝春秋

 宮藤官九郎が文字の上に創造した天野アキという人格は、まるでアプリケーションのように彼女の中に今も存在し、社会と魂をつなぐコミュニケーションツールのように彼女を助けているように見える。彼女は『あまちゃん』という作品を通して、道に迷った時には天野アキのようにあればいいのだ、という社会との関わり方をインストールしたのだと思う。