『羊と鋼の森』を書き終えた時の書ききった感がものすごくて、しばらく次の話が出てこなかったんです
――いきなりファンタジーとか、そういう話ではないわけですよね。
宮下 ファンタジーとかではなくて、もうちょっとドキドキするものとか。たとえば、調律師の話にしても、コンクールの舞台を書けば事件性も出て、物語に起伏が生まれますよね。でも自分は音楽に勝負というのは違うんじゃないかと思って、そういうものはあんまり好きじゃないんですが、でもそれが入っているほうが物語としてドキドキできるんだろうな、ということです。
――そこから、小路幸也さんとの共著『つむじダブル』(12年刊/のちポプラ文庫)、エッセイ集『はじめからその話をすればよかった』(13年刊/のち実業之日本社文庫)があり、さらに異なる場所で生きてきた男女の人生を描く『ふたつのしるし』(14年刊/幻冬舎)、賄賂の罪が発覚して失踪した男と周囲の人たちを描く連作集『たった、それだけ』(14年刊/双葉社)など、いろんな試みをされていますよね。考えてみれば宮下さんって『文學界』出身なのに、純文学の人というイメージがあまりないですよね。ご自身ではどう思っていますか。
宮下 『文學界』に応募したのもジャンルを意識したわけでなく、辻原登さんが選考委員にいらしたので、辻原さんに読んでいただけたらいいな、と思ったからなんです。デビューしたあとは声をかけてくださるところが、あまり純文学のところから来なかったので、自分はそうじゃないのかなって。周りが決めてくれている感じで、自分ではどこがどう違うのかはよく分かっていないです。面白ければいいな、という感じ。でも、そうなると『群像』はずっと声をかけてくださっているんですけれど、何を書いたらいいか分からなくなってしまって。先日その講談社の編集者に「宮下さん、『群像』に何を書いていいか分からないと言い続けて10年になりますが、分かりましたか?」と言われてしまいました(笑)。
――今後はどんなものに取り組む予定なんでしょうか。
宮下 『小説すばる』で書いていたのが、一応家族の話なんです。家族が舞台なんですけれども家族以外の他人がやってくる話として3話くらい書いて、そこで何か違うと思って、止まってしまっていて。1話ずつはわりと自分でも気に入っているものが書けているんですけれど、途中で違うものが書きたくなったんだと思うんですよね。体調を崩したということもあるし、『羊と鋼の森』を書き終えた時の書ききった感がものすごくて、しばらく次の話が出てこなかったというのもあります。それを再開するつもりです。今度はきちんと最後まで書いてから連載すると思います。それをちゃんとやらないと、待ってくれている「小説すばる」に申しわけなさすぎるというのがあります。
今は自分ができるキャパみたいなものがだいぶ分かっているし、無理して受けてもいいことがないことも分かっているので、できる範囲で書いていこうと思っています。