昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

”コントの時代”を創った男が語る「日本テレビにあって、フジテレビにないもの」

テレビバラエティ演出家・小松純也さんインタビュー #4

「フジテレビ的」なるものが叩かれやすい時代

――今、フジテレビがかなり苦しい立場になっています。この現状をどう思われていますか?

小松 僕らはよかった時期にフジテレビに入って、いっぺんダメになって、またよくなったプロセスを体感してます。だから、またいい時代が来ることだってあるだろうとは思ってます。現に能力がある人間もいっぱいいますし。ただ、そのためには、やっぱりフジテレビ自体がある意味変わるべき時が来たのかなとは思います。「フジテレビ的」という言い方は嫌いと申し上げましたけど、僕は後輩たちに「フジテレビらしさはあなたらしさなんだ」っていうのをずっと言い続けてきたんです。自分らしいものをきちんと作る。そういう主張をする。その結果、ノリに統一感が出てきて、それを世の中の人が「フジテレビ的」と呼ぶようになる。今思われている「フジテレビ的」なるものが叩かれやすい時代になっていることはよく分かるんですけどね。

©三宅史郎/文藝春秋

――「フジテレビ的」という言葉で連想するのは、たとえばバラエティ番組でも制作側が表に出てくるような「内輪感」でしょうか。

小松 横澤さん、三宅(恵介)さんたちが作った『いいとも!』、『ひょうきん族』や、石田(弘)さん、港(浩一)さんの『みなさんのおかげです』のようなノリですよね。でも当時だって、作り手側の個性はてんでバラバラで、『なるほど! ザ・ワールド』の王東順さん、『ものまね王座』の木村忠寛さん、『夜ヒット』『どっきり』『水泳大会』の疋田拓さん、井上信悟さんだっていた。そのバラバラさというのがタイムテーブルで言えば強さにつながっていたと思うんです。今はこういう状況だけど、個人のポテンシャルがきちんと出せる状況をマネジメント側が作ってあげれば大丈夫だと思うんです。ただ、この時代の空気の変化というのは変えにくいものがあるかもしれませんが。

――それは、シリアスな時代になっちゃったということですか?

小松 そうですね。「平時のフジテレビ」「平和を愛するフジテレビ」って僕はよく言うんです。やっぱり世の中の楽しいものを自分たちの目で見つけて、それを広げていくということがフジテレビの方法論なんですよ。「楽しくなければテレビじゃない」って昔のフジテレビのキャッチコピーですけど、基本的な思考回路がハッピーなんですよね。それを個人レベルが好き勝手にやって、結果うまくいく。それが受け入れられる時代じゃなくなった。

日本テレビにあって、フジテレビにないもの

――逆に今、日本テレビがすごく強いですけど、その要因って何だと思いますか?

小松 勝手な想像ですが戦略的、ということに尽きると思います。日テレってある意味、上意下達がすごくはっきりしていて、数字が悪けりゃ飛ばされる。そういう組織だと聞きます。厳しく人材を育成して、制作者が持つべきストイックさとかが保たれるようにしていますよね。ずいぶん前から「先輩に挑め」というノリで企画募集もしている。番組をやる目的とか、意味とか、組織づくりとか、そこら辺の筋道が理詰めにちゃんとしている。ナチュラルではなくて人工的なものの強さが出ているかなと思います。

©三宅史郎/文藝春秋

――フジテレビにはない文化なんですか?

小松 フジテレビはそういう意味で言うとカオスです。ただ、カオスには人工的なものを超える想像できないようなものが生まれる可能性はある。あくまで僕の主観ですが、フジテレビの基本的な感覚、姿勢というのは、自分たちのしていることは所詮「人の営み」なんだ、という割り切りのような気がします。例えば、フジテレビは編成にも制作的な機能があって番組を作る。当然制作も作る。そうすると、編成と制作がライバル心を持って、番組をぶつけ合う。競争心がうまく作用すればヒットが生まれる。モチベーションもクオリティーに大きく関わる。「人の営み」だからという理論です。関係制作会社もライバル同士の位置で沢山ある

 でも今は、クリエイティビティがどうとかっていう人の能力に賭けるよりも、マーケティング的な考え方で数字を狙っていくのが主流です。そうせざるを得ない時代ということもあって、日テレさんだけじゃなく全局その方向にあります。悪い言い方をすれば対象におもねっていくやり方です。ただ、マーケティング的に一番強いものって、結局「新しいもの」だと僕は信じたい。世代を問わず、新鮮に見えるものが作れれば、それが実はどの世代にも受け入れられるんじゃないかと。だから、お年寄りターゲットに健康番組をやるのもいいとは思うけど、僕らはできれば「新しいもの」を見つけていくほうをやって行きたい。そもそも健康の番組を作るモチベーションはなかなか高まらないんでね。といいながら、食べ物の番組なんか絶対やらないと思ってたのにやってるんですけど。

©三宅史郎/文藝春秋

『トリビアの泉』が生まれたとき、『人生最高レストラン』が生まれたとき

――TBSで放送している『人生最高レストラン』ですね。

小松 はい。食べ物の「話をする番組」っていうのはいっぺんやってみたくて、ずっと温めていた企画なんですよ。テレビに限らないかもしれませんが、企画って飲み屋の会話で盛り上がるものが当たるって言われますよね。「ひょうきんディレクターズ」の時代だったら六本木のクラブでホステスさんと盛り上がった企画をやってたんだろうし、居酒屋で友達と「あれってこうなんだってよ」「へえ」っていう会話を目指して当たったのが『トリビアの泉』。で、飯食ってみんなでワーワー言ってる時に「あそこのあれうまかった」っていう話もたいてい盛り上がりますよね。それを企画にしたのが『人生最高レストラン』です。

「人生最高レストラン」 ©TBS

――グルメ番組なのに食べないっていう設定が新しい。

小松 だって、スタジオで出されてる飯を「うまい」って言ったって、普通「ホントか?」って思いますもんね。それよりは話だけを聞いて、心地の良さそうなお店の空間で出来上がったばかりの料理をきれいに撮ったほうがいいと。いまだに「なんで食わねえんだ」って言われますけどね。「食ったらまずそうに見えるから食わないんだ」って言い返してます(笑)。

日本人に向けたスローテレビって何か、考えてみたい

――他に新しくやってみたいことってありますか?

小松 「本当に世界一強い男を決める」っていうのをやりたいんですよね(笑)。

――世界一強い男?

小松 元特殊部隊とかデルタフォースとかそういう人たちを集めてワールドワイドにサバイバルゲームをやってみたい。以前、『27時間テレビ』で自衛隊vs米軍の運動会っていうのをやったんですよ。戦後60年を迎えた2005年に、昔は戦火を交えていた人たちが、今こういう平和な戦いさえできるようになったことを表現しようって。それで日米「棒倒し」をやろうと自衛隊の方面総監だった人に相談したら「死人が出ます」と止められて(笑)。「申し上げておきますが、われわれは絶対負けることを許されないのです」って言うんですよ。仕方がないから、日米双方入り交じった紅組・白組を編成して「運動会」をやってもらったんですけどね。ちょっとフラフラした企画になっちゃった。「ぶつかるんだったら本気なんです。それしかないんです」って本気で言われたのが忘れられなくて、それでサバイバルゲームを映像エンターテインメントにしてみたいな、と思ってるんです。

――壮大ですね!

小松 あとはさっき言いましたけど、家庭の会話の邪魔にならない番組を「ちゃんと作る」っていうのもやってみたい。ノルウェーでたき火を映しただけの番組が視聴率20パーセント取って話題になりましたけど、日本で同じことをしてもダメだと思うんです。じゃあ日本人に向けたスローテレビって何なんだ、ということを真剣に考えてみたい。なんせブランクが長かったんで、やりたいことはいっぱいあるんですよ。

©三宅史郎/文藝春秋

こまつ・じゅんや/1967年生まれ。京都大学在学中に「劇団そとばこまち」に所属、放送作家としても活動した。90年フジテレビ入社。バラエティ番組制作に携わり続け、『ダウンタウンのごっつええ感じ』『笑う犬の生活』で90年代のコント番組を牽引した。関わった番組は他に『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』『トリビアの泉』『IPPONグランプリ』『ほんまでっか!?TV』など多数。現在は共同テレビジョン第2制作部部長として、『ドキュメンタル』『人生最高レストラン』『チコちゃんに叱られる!』など多様な番組をプロデュース、演出している。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー