街は変わっても100年近く変わらなかった「木造駅舎」
と、いろいろ盛りだくさんであったが、これが原宿駅のこれまでの歩みである。絶えず中心にあるのは明治神宮というのは間違いないが、その上で軍隊の駅、米兵の駅、オリンピックの駅、ファッションの駅と、周囲の状況に合わせて変幻自在。ただ、性質は変わったけれど駅舎そのものは1924年から一度も変わっていないのだ。こうした駅は他に探そうにもなかなかないだろう。駅舎の入り口に掲げられている筆書き文字のような「原宿駅」という文字がどこか誇らしげなのは、そうした歴史を乗り越えてきたゆえのプライドなのか。
ただいずれにしても原宿の“駅舎が手狭”という問題は駅の歴史のほとんどの時期を通じた悩みであった。これまでも何度か建て替えの話が出ては消え、増築を繰り返すことでしのいできた。それでも1日の乗車人員が7万5000人を超える中では、どうにもこらえきれないということだろう。そうした中で、原宿の街のシンボルで有り続けた駅舎が建て替えられるというのは仕方のない流れ。現在の駅舎はオリンピック・パラリンピック終了後に取り壊される予定だという。
「これは壊しちゃうんですか?」
駅前で待ち合わせをしていた20代の女性に「この駅舎がなくなるって知ってますか?」と聞いてみた。
「新しくなるのは知ってましたけど、これは壊しちゃうんですか? きれいになるのは嬉しいですけどね。狭くてぶつかることもあるから怖いなと思ったこともありますし。だけど、これがなくなると思ったらちょっとさみしいですね。原宿に来たら、この駅だったから」
なくなるものに寂しさを覚えるのは人の情。原宿を原宿たらしめているのは、周囲の変貌にも関わらず同じ姿をたたえてきた大正ロマンの木造駅舎があったからこそなのかもしれない。てっぺんに、トンガリ塔を設えた立派で力強い古き原宿駅舎。それを見て利用することができるお正月は、2020年が最後である。
写真=鼠入昌史