「ライターとして、来た球は何でも打ち返す。何か知らないジャンルの依頼が来たらまずは受けられないか考える癖が付いているんです(笑)。PTAの会長を引き受けてみたのも、職業上の習性ですね」
書評家・ライターとして精力的に活動する杉江松恋さんの新著は『ある日うっかりPTA』。集団行動が苦手な金髪(当時)・髭・サングラスの大男が飛び込んだのは、およそ世間の常識とはズレた世界だった。
「PTAって最初、保護者の権利を守る組織だと思っていたら、じつは行政組織だった。教育委員会や学校で決定したことをすみずみまで行き渡るよう力を貸す、という意味合いが強くあったんですね。学校の決めることは絶対で、たとえば直前の日程変更なども学校の意向が9割方通る。“PTA会長は校長の嫁”と公言する人もいるくらい、上意下達の文化でした」
数々の硬直化した慣習や不合理なシステム……そのまま続けたらパンクすると確信した杉江さんは、鎌田實さんの著書に言葉を借りて、「がんばらない、をがんばろう」というテーマを掲げる。息切れしない活動のあり方を探った。
「がんばらないようにがんばると、あとがとても楽だと鎌田先生が言っていたので(笑)。PTA会室に立ち寄った人はノートにひと言残そうとか、運営便りは何をしたいか分かりやすくするとか、大学のサークルに近いノリを目指しましたね。
あと、もともとは会社員で営業をやっていたので、目標を立てて達成したり、予め関係者の話を聞いて調整したりすることが割と得意で。毎月各委員会の委員長や役員、先生方と集まって、僕がおかしいと思ったことを意見交換していったんです。意思疎通を1年間続けたので、2年目にここ変えませんか? と提案した時にあまり反対がなかった。どんな人も、突然言われると怒ったり反発したりするものですから(笑)」
そんな丁寧なアプローチが実を結んだ改革劇は本書の白眉。大変なPTA会長を3年間務めていちばん良かったこととは何だろう?
「地元の知り合いがたくさんできたことと、考え方の違うとくに女性の保護者の方と、お互いに歩み寄るような話し方を学べたことかな。だから、いまSNSで絶対炎上しない自信があります(笑)。文化の違う人に自分の常識を押しつけちゃダメ、お互いのプライベートには踏み込まない――その感覚が一番近いのはツイッターですから」
『ある日うっかりPTA』
自分には無関係な存在と思っていたPTA会長。金髪、ヒゲ、サングラスのフリーライターが周りから推薦されて、息子が通う公立小学校のPTA会長にうっかり就任! 世間の常識と乖離した慣習やルールが満載のPTAの世界に“おっちょこちょい”の著者が挑む。小さな革命に勇気づけられるドタバタ奮闘ルポ。