「1年目から走るつもりで、死にものぐるいでやらないと」
「人生で初めてちゃんと走った5000mは、入学してすぐの4月頭にあった記録会です。記録は15分8秒でした。中央学院大の入部基準が15分10秒で、ひとまずそこは常に意識していたので、それを切れてほっとしました。入学当初は寮に入れず一人暮らしをしていたので、監督からも『慣れるまでは朝練習も参加しなくていいよ』と言われていました。そもそも1年生は上級生よりメニューを減らしているんですが、さらに朝練もナシにして、それでようやくなんとかついていけるくらいの感覚でした」
それでも念願の入部が叶ってからの武川は、練習に食らいつき続け、トントン拍子の成長を見せることになる。
2019年5月に5000mで14分台に突入すると、1年目からチームの夏合宿に参加し、そのメニューのほとんどを消化。秋には10000mで29分24秒の好記録をマークすると、出雲、全日本の大学駅伝でも、出走こそならなかったもののメンバーに選ばれる躍進を遂げた。
当初、武川は「2年目か3年目で選考に絡んで、4年間で1回でも箱根を走れたらいいなぁ」という想いだったという。だが、夏合宿の前にコーチから「そんな考えだと絶対にズルズル行って走れない。1年目から走るつもりで、死にものぐるいでやらないと」と諭された。そこからは、1年目から本気で大学駅伝を走るつもりで、必死さが増したという。
『地道に走り込む』練習が多い中央学院のチームカラー
「全日本は当初走る予定だった同じ1年生がケガをしたこともあって、走れる可能性はあったんですけど、自分も夏の疲れが出て調子があがらなくて……。監督からは『駅伝を実際に見ておいた方が良いから』ということで現地に連れて行ってもらいました。4年生のサポートをしながらレースまでの流れを見せてもらって、勉強になりました」
そして、下りの走りへの適性を見出されて起用された箱根駅伝での活躍ぶりは、冒頭のとおりである。
ではなぜ、武川はこれほど急速な成長を見せることができたのだろうか。
ひとつは中央学院という大学のチームカラーが武川にマッチしたことだ。
「中央学院って、高校時代にすごく実績のある有名選手はあまりいないんです。だから、チームカラーとして『地道に走り込む』練習が多いスタイルです。それが自分のような、高校時代の積み上げがない選手にとってはすごく合っていました。
強豪校のエリート軍団みたいに、いきなり1000m×10本とかをやらされて、2、3本目で『付いていけない!』となるよりは良かったと思います。まずはジョグをしっかりやることになるので、ジョグでももちろんきついんですけど、我慢すればできるメニューなので。それを1年間しっかりやってきたから、結果的に一番大きかったのかなと感じます。正直、『まずは必死にジョグに食らいついていくぐらいしかできないかな』と思っていたので……」