作家、社会学者の鈴木涼美さんが、2014年から2019年までのTV Bros.連載に加え、各雑誌やWebに掲載されたエッセイ・評論・書評などをまとめた、5年分のコラム集『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(Bros.books)を上梓。新刊に収録されたローランド論、「夢のホスティーランドは忘却の彼方に」を特別公開します。(初出:「TV Bros.」2020年1月号)

『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(Bros.books)

名前が挙がるのはローランド一択

 私がよく男女問題や社会問題のたとえ話にホスト業界の慣習や用語を使うからなんだろうけど、話の流れで、テレビにローランドが出ているとついつい見ちゃうんだよね的なことを言ってくる女性に最近結構会う。歌舞伎町や大阪(※1)でホストとして伝説を持っている人というのは数多いて、それこそホスト雑誌(※2)がいくつかあった10年前は有名ホストというのが今よりもわかりやすくホスト通いをする女子たちの間に共有されていたのだが、雑誌がなくなりSNSが台頭している昨今は意外とみんなが共通して知っている有名ホストというのは少なくなって、ホストが好きだろうと全く興味がなかろうと、名前が挙がるのはローランド一択となった。ホストとしての売り上げや伝説で言えば、特に私の世代はローランドより華々しいホストたちの名前を挙げたくなるのだが、メディア露出とそのキャラクターでこれほど一般層にまで存在が浸透したホストは過去にもいなかった。

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 彼がまだ東城誠という名前だった頃も、歌舞伎町ではそれなりに有名人だった。ただそれはホストとして売り上げがすごいとかイケメンだとかいうよりは、整形の仕方がすごいとかブログが面白いということによるもので、私も何度かホストのバースデーイベント(※3)などで彼を見かけたことはあったが、噂通り整形がすごいという感想以外は特に持たなかった。普通ホストはホスト界で超有名になることでちょろっと一般にも名前が知られることになると思っていたが、彼の場合は名前をローランドに変え、持ち前の文才と言葉のセンスでメディア発信を始めた頃から、じわじわと一般に有名になり、そこから歌舞伎町の中でも圧倒的存在感を放つようになったらしい。

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 と、長々ローランドの歴史を語る必要は別にないのだけど、とにかく今結構世間はローランド様に夢中で、最近では彼の名言を集めた書籍が話題になっている。ブログで文才を示していた頃から彼は名言吐きなのだ。それも、長々と言葉を重ね、日々言葉をこねくり回して名言を編み上げるタイプではなく、極めて大喜利的な意味で。彼の本のタイトルになっている「俺か、俺以外か」などなど数々の名言は、お題を与えられてそれで謎かけをする芸人や、大喜利の番組でバツっと気持ちよく笑える答えを出す芸人に似ている。SNSの短いメッセージに慣れた大衆は今、とにかくお題に対して求められる面白い答えを瞬時に答えるような大喜利的才能に魅かれるらしい。