昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2017/07/20

勉強のテクニック(2) 語学をやろう

 2つ目は、語学をきちんとやってください、ということです。

 英語だけではなく、複数の外国語をやってください。今後、実用的なレベルでは、かなり高度な翻訳もAIが担う時代になるでしょう。ちょっとしたメールの下書きなどは、すでにGoogle翻訳でもできるようになりましたが、向こう5、6年の間に現代語の自動翻訳レベルは相当程度上がるはずです。しかし、語学において重要なのは、言葉の歴史性です。言葉=概念には、現代語の用法からは見えないような、ねじれた地層があります。最近、國分功一郎さんが『中動態の哲学』(医学書院)という本を出されました。今われわれの言語を支配しているのは能動態と受動態ですが、そこからはアプローチできない「中動態」というあり方について考えている本です。今は失われてしまった中動態の歴史をたどることで、古代ギリシャ人の考え方を復元しているのです。

 自分が慣れ親しんだ言語とまったく異なる言語に入っていくことは、自己破壊的な経験です。変身なのです。失われた言語を学ぶことは重要です。現代の我々は、現代語のシステムの範囲内でしか思考できていない。もっと別様にものを見る可能性が、言語の歴史を遡ることでわかってくる。國分さんの本はひじょうに説得的に、語学を学ぶことが思考の拡張であるということを示しています。私たちは今、近現代の科学主義の上に生きていますが、それも一つのイズムなのです。では、なぜこの科学主義が現代に成立することになったのかを、考古学的に問い続ける必要があるのです。そのためには複数の古い言語にまたがった研究が必要です。現在のシステムを当然視するのではなく、それを成立させている知の前提条件、エピステーメーを問い直す。我々が何を忘却した結果として現代を生きているのかを深く考えなけれなばならない。

©末永裕樹/文藝春秋

 以前の世代においては対立していた分野の垣根を、今の若い人たちはどんどん越えています。哲学の領域で言えば、分析哲学と大陸哲学の分断を越える研究も、新世代がどんどん進めています。若い人たちは、かつて分野同士にあったコンプレックス絡みの対立から自由になったように見えます。だから、僕はできる限り若い人たちと関わって、僕に残存している昔の垣根をぶっ壊していきたいと思っています。無難な勉強ではなく、もっと深くヤバい勉強へ。そして、終わりなき変身の過程へ。ぜひ恐れることなく、身を投じてみてほしいと願っています。

©末永裕樹/文藝春秋

文責:文藝春秋第一文藝部

ちば・まさや/1978年栃木県生まれ。東京大学教養学部卒業。パリ第10大学および高等師範学校を経て、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。哲学/表象文化論を専攻。フランス現代思想の研究と、美術・文学・ファッションなどの批評を連関させて行う。現在は、立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授。著書に『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生変化の哲学』、『別のしかたで――ツイッター哲学』、訳書にカンタン・メイヤスー『有限性の後で――偶然性の必然性についての試論』(共訳)がある。今年5月には『勉強の哲学 来たるべきバカのために』を出版し、「東大京大で一番読まれている本」になった。

勉強の哲学 来たるべきバカのために

千葉 雅也(著)

文藝春秋
2017年4月11日 発売

購入する

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー