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都内で感染者急増 新型コロナ患者を診る医師が、いま一番恐れていること

国際感染症センター・忽那賢志医師インタビュー#1

2020/03/26
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最前線で期待される治療薬

──日本集中治療医学会の調査で示された台数とは異なり、実際に使える台数はかなり限られてくると言うことですね。先日、HIV治療薬のカレトラの臨床試験の結果が出て、使用しない場合と比べて有意な差が見られないということでしたが(※4)、実際に使用されていかがでしたか。また、今後治療薬の候補はあるのでしょうか。 

忽那 カレトラは、既に何人かの方に使用しましたが、効くという実感はあまりありませんでした。 この研究における症例数が十分ではないため結論づけるのは早計かもしれませんが、今後は、あまり使用されなくなっていくかもしれません。

 

 アビガンという、インフルエンザの治療目的に開発された薬は、中国で80人規模の臨床試験が行われ、カレトラと比較して、CT検査での改善やウイルス消失までの日数が短いという結果がでています(※5)。また、早ければ4月には、国内未承認のレムデシビルの中国での臨床試験結果が出るかも知れません。国内でも、レムデシビル、膵炎治療薬のナファモスタットの多施設共同研究が、当院も含めて計画されています。 

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集団免疫戦略には「疑問がある」

──イギリス政府の発表で、集団免疫戦略が話題になりました。 

忽那 基本再生算数を2.5として、国民の60-70%が感染すれば流行が収まるとする集団免疫戦略ですが、 その戦略の方向性には疑問があります 。高齢者や持病を持つ方にとっては恐ろしい病気ですから、国民がどんどん感染するようになると、死者を大量に出すことになります。

 わたしたちは、あくまで、発症者のピークを後ろにずらし、医療のキャパシティを超えないように、カーブをなだらかにしていく必要があります。ピークは夏よりももっと後になる可能性もあります。

https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/000603002.pdfより)

 ピークを遅らせつつ、ワクチンや治療薬ができるのを待つのが重要です。ワクチンは、米国国立衛生研究所(NIH)が先日第1相臨床試験に着手、開発が急ピッチで進められる可能性もありますが(※6)、免疫がつかないこともあり、複数の種類のワクチン開発を進めた方がいいと思いますし、まだどうなるかははっきりしません。 

(後編「PCR検査の対象は「日韓で大きく異なるわけではない」 新型コロナの治療にあたる医師が、報道を危惧する理由」を読む)

写真=榎本麻美/文藝春秋

 

レファレンス
※1 https://www.mhlw.go.jp/content/000601816.pdf
※2 https://www.jsicm.org/news/upload/COVID-19-ECMOnet-report-20200304.pdf 
※3 https://www.jsicm.org/news/upload/COVID-19-ECMOnet-report_20200311.pdf 
※4 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001282?query=featured_home 
※5 論文のリンクはこちら。4月2日にこの論文は撤回されているが、現在複数の臨床試験が進行中であり、今後の結果を待つ必要がある。
※6 https://www.niaid.nih.gov/news-events/nih-clinical-trial-investigational-vaccine-covid-19-begins 

2020年4月4日(土)に一部情報を更新しました。

都内で感染者急増 新型コロナ患者を診る医師が、いま一番恐れていること

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