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アメリカで臨終の場に導入された「最後の電話」

 現在、全世界で新型コロナ感染による死者数は20万人を超え、なかでも国別の死亡者数が最も多いアメリカは5万人以上の死者が出ている。現地メディアによると、遺体を安置する場所が不足し、病院に横付けされた冷凍トラックに遺体を運び込んでしのぐほど過酷な状況に陥っているという。アメリカでは、新型コロナによる死はもはや珍しいことではないのだ。

「アメリカでは新型コロナによる死別にあたって、患者本人やその家族へのメンタルケアの必要性が急速に認識され始めています。そこで臨終の場に導入されているのが『最後の電話』です。アメリカでは亡くなる直前に家族が患者に電話で声をかけることが許される病院があるのです。しかし家族は想像を絶するようなショックを受けているだろうし、頭は真っ白になってしまっている。そんな家族になんと声をかければいいのか分からないという医療従事者も多いでしょう」(同前)

©AFLO

医療従事者向けに公開された「最後の電話」のシナリオ

 そこで、臨終の場に立ち会う医療従事者に向けて、世界最大の感染中心地となったニューヨークにあるマウントサイナイ医科大学病院が立ち上げたウェブサイトに公開されたのが「最後の電話」のシナリオだ。森田氏はこのシナリオを日本語訳し、日本の医療従事者向けのウェブサイトで共有した。

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「シナリオは、『最後の電話』の際に、医療従事者が患者の家族にどのような声をかければいいのか、何に気をつければいいのかが分かるように書かれています。新型コロナ患者が増えている現状では、治療や感染管理、限られた病床のやりくりで手一杯で、どうしてもメンタルサポートの部分にまで手が回らない現実がある。アメリカと日本では勝手が違うことも多いでしょう。ただ『家族や患者にどう声かけすればいいか分からない』という医療従事者の現場での対応に生かせる部分があるのではないかと思ったのです」(同前)

©AFLO

 このシナリオを作成した、ワシントン大学メディカルセンターのアンソニー・バック医師にも話を聞くことができた。バック医師は自らも新型コロナ患者のメンタルケアに当たる緩和ケア医だ。

「入院してから家族と面会できず、患者が孤独の中で亡くなっていく状況に懸念がありました。いままで何度も患者を看取ってきた医師や看護師であっても、新型コロナウイルスによる臨終の場はいままでの経験だけでは対処しきれないことが多いのです。ひとりで死に向かう患者をどう支えるのか、そして顔を見られないまま大切な人を亡くす家族をどう癒すのか。混乱する現場の指針になることを祈り、このシナリオを作成しました」