気が動転している家族に例示されている5つの言葉
アメリカ国内では、医療スタッフ間で実際にこのシナリオを共有し、臨終の現場で活用している病院もあるという。シナリオは、新型コロナウイルス感染による肺炎で亡くなる直前の患者を診る医師が、家族に電話で連絡を取る場面から始まる。
医師「担当の医師の○○です」
家族「はい○○です」
医師「これが最後の別れになると思います。最後に電話でご本人に声をかけてほしいです」
家族「正直、頭が真っ白で何を言ったらいいか分かりません」
ここで、医療者は5つの言葉を例としてあげる。
医師「これから、いくつか例をあげてみますね。『これまでありがとう』『大変だったね』『お疲れ様』『もう頑張らなくていいよ』『大好きだよ』。こういった言葉をかけられる方が多いです」
家族「それじゃ、『ありがとう』から始めてみます」
バック医師は「自分の家族が亡くなるという現実を前に、気が動転して頭が真っ白になりがちな中で、言葉を例として挙げることで、家族も声をかけやすくなるんです」と説明する。例示されているこの5つの言葉は、日常のホスピスで、死別の現場において実際によく家族からかけられる言葉だという。
聴覚は最後まで残る
医師「頭で考えるのではなくて、心から湧いてくる言葉がいいですね」
家族「でも、聞こえるんですか」
医師「答えられないかもしれませんが、最後まで残るのは聴覚ですから聞こえていると思います。あなたの声はわかるでしょう」
実際に、死の直前まで耳は聞こえるのだろうか。
「聴覚が最後まで残る、というのはホスピスの現場でよく使われる言葉です。実際に目を開くことができず、医師や看護師の問いかけにも反応しない患者が、家族の声が聞こえると、もっと聞き取ろうと首を傾けて家族のほうに近づこうとすることはよく起きています」(同前)
家族「わかりました。名前を告げて『ありがとう』から始めてみます」
医師「そのような言葉をかけられたら、ご本人もきっと安心されると思います」
家族「はい……」