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 台湾は、昨年12月の段階で中国・武漢における原因不明の伝染病に関するネット等の情報を確認し、1月中旬には現地に調査団を派遣しました。発信される情報のみに頼らず、自らの目で事実を確認するために、素早く動いたのです。「自分の身は自分で守る」という決意の表れなのでしょう。

デジタル担当大臣のオードリー・タン氏 ©AFLO

世界は台湾の取り組みから多くを学べる

 中国は、昨年8月から、「現下の両岸(中台)関係」を理由に、台湾への個人旅行を停止し、これに伴い、すでに減少傾向にあった団体旅行も一層少なくなりました。中国人旅行客は、台湾の観光産業において大きなウエイトを占めていたので、現在の蔡英文体制にとっては、少なからず経済的なプレッシャーになったはずです。今振り返ってみると、今年1月下旬の旧正月の時点で、中国からの旅行客が大幅に減少していたことは、台湾の防疫にとってはプラスに働いたと言えるでしょう。しかし、それだけで「ラッキーだった」と評価するのは、不公平というものだと思います。

 人口約2300万人の台湾では、100万人近い人が中国で働いているとも言われており、36万人以上が中国の人と結婚しています。旧正月には、多くの人たちが中台間を移動したことでしょう。実際、1月21日に確認された台湾で最初の感染は武漢からの帰台者で、13人目までは、すべて武漢の関係でした。減っていたとは言え、この中には武漢からの中国人旅行者も含まれていました。米ジョンズ・ホプキンス大学の1月のレポートでは、中国と距離的に近く人的往来も活発な台湾での、深刻な感染拡大を予測していました。当初、この予測に大きな疑問を抱いた人は少なかったのではないでしょうか。

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 台湾は、その予想を見事な形で裏切ったのです。それは、なぜでしょうか。台湾は、世界保健機関(WHO)に参加できておらず、感染症情報の世界的ネットワークに、思うようにアクセスできないという困難を抱えています。もしもですが、このことが、感染症対策における台湾のサバイバル能力を高めたのだとしたら、あまりにも悲しいことです。世界的な保健課題への対応には、地理的な空白があってはなりません。もうじき、WHO総会(WHA)が開催されます。繰り返しになりますが、日本は、台湾のオブザーバー参加を、力強く支持する立場です。私たちは、世界の保健・衛生課題のために、今回の台湾の防疫の取組から、多くのことを学べると確信しています。