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「自分の身は自分で守る」――台湾はなぜ「新型コロナ」に勝てたのか #1

「自分の身は自分で守る」――台湾はなぜ「新型コロナ」に勝てたのか #1

「日本台湾交流協会」台北事務所・泉裕泰代表に聞く「新型コロナ100日間の戦い」 #1

2020/05/10
note

 これは、テレビ各局が、この危機において社会インフラとしての役割を担おうとしていること、その前提として、指揮センターとメディアとの間に、しっかりとした信頼関係が築かれていることを意味しているのではないか、私は、そのように感じています。

 対応の責任者らはメディアを通して毎日市民と向き合い、メディアの側も、批判的視線を保ちながらも、人々の健康と命を守るために、指揮センターへの協力を惜しまない。そして一般の市民らも、一定の不便や経済的損失もある中で、人類が直面したことのない危機に際して、一致協力して乗り越えようと努力し、支え合っている。

マイクを持つ陳時中氏 ©getty

台湾の防疫はなぜ成功しているのか

「台湾の防疫はなぜ成功しているのか」とよく聞かれます。2月初旬という非常に早い段階で当局によるマスク管理を開始したことや、デジタル担当大臣のオードリー・タン氏が開発を支援したという薬局ごとにマスクの在庫を確認できるアプリなどは、日本でもよく知られているようです。2月中旬には、中国との空路を大幅に制限しました。私がこの3か月あまりの間、現地で見てきて感じるのは、そうした様々な政策が大変功を奏しているということを大前提としつつ、そうした防疫に直結する政策のみならず、当局とメディアの連携の成功、そして一般の人々の危機意識の高さ、これらのうちのいずれか一つでも欠けていたら、今ほどの成功はなかったかもしれない、ということです。

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 では、なぜ台湾はそれができたのでしょうか。私が思うのはやはり、2003年のSARSの経験です。この時、台湾では、大流行地域であった中国と香港の次に多い犠牲者を出してしまいました。院内感染も起こり、台湾中がパニックに見舞われたそうです。このことは、台湾に、深い悲しみと、そして、「自分の身は自分で守る」という、強い決意をもたらしたのではないかと思います。

 台湾はSARSの後、伝染病防治法を大幅に改正し、強制力を伴う各種感染症対応の措置を可能としました。それだけでなく、毎年、感染症対策のシミュレーションを続けてきたと言います。いつ何時やってくるか分からない、もしかすると永遠にやってこないかもしれない「次のSARS」に、ひたすら備え続けてきたのです。