地方の反発で東京は孤立した
私が興味深いと思うのは、こうした官邸と東京との激しい対立が続いても、東京を擁護する声が全国の知事から上がらなかったことです。それどころか、東京を攻撃することが、ある種の地元民へのコロナ対策のアピールの場になっていきました。
東京都内での新規感染者数が2日連続で100人を超えた7月3日には、島根県の丸山達也知事が県民に対して「新宿区歌舞伎町に類する繁華街」への夜間の外出を自粛するよう要請。「都は都民に向けてもっと具体的な感染防止のための要請や注意を示すべきだと思ったが、その期待を裏切られた」とも踏み込みました。さらには7月9日、兵庫県の井戸敏三知事が、「諸悪の根源は東京」とまで言い切りました。
実際に東京で突出して感染が拡大したのは事実ですし、長年の東京一極集中に対する反発もあるのでしょう。ただ、感染が全国に再び広がる前だったこともあって、東京を攻撃すれば自分たちが「浮き上がれる」状況もありました。
さらに、地方にも感染が広がると、7月31日に岐阜県の古田肇知事が県独自の「第2波非常事態宣言」を、8月1日には沖縄県の玉城デニー知事も県独自の「緊急事態宣言」を出しました。8月3日には三重県も独自の「緊急警戒宣言」を出しています。
いまや各知事は、コロナを巡って「とにかく言ったもん勝ち」とも言える状態になっている。
知事たち側の事情を考えてみれば、国があまりに無策で、日本中の知事が積極的に発信を続けたことで、独自のコロナ政策を訴えるのが「ウケる」ということが明らかになったという事情もある。もはや「いわないと損」な状況とも言えます。
いままで地方の知事は、その県のトップとして地方のメディアに取り上げられればそれで十分でした。しかし、コロナの問題では、ほかの都道府県よりどれだけ目立てるかの競争となり、全国メディアに大きく取り上げてもらうことも大切になってきた。
直接選挙で選ばれる知事にとって、「うちの知事はこの危機に何もやらない」「他の県は色々やっているけど、うちの県は……」と無能のレッテルを貼られるほど怖いことはありません。たとえ「言いっぱなし」に見えたとしても、口に出していかないと他県との比較で埋没してしまうのです。
このようにして、中央と地方という対立軸だけでなく、地方同士も「アピール合戦」に突入して、議論が積み上がらず、国と地方が一致団結して立ち向かう雰囲気はなくなってしまったのです。