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「日本の方が“閉塞感”は強い」パリから帰国した雨宮塔子が感じた“自粛の空気”

雨宮塔子さんインタビュー

2020/09/06
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罰金があったからみんなルールに従った

雨宮 ロックダウン中、基本的に外出を許されたのは自宅から1キロ以内の範囲だけで、買い物に行くにも政府が定めた外出許可書を必ず携帯する必要がありました。また、スーパーに入店するときや、バスやメトロなどの公共交通機関に乗るときには、マスク着用が義務づけられて。ただ、そうしたルールにみんな素直に従っていたのは、やはり罰金があったからだと思います。1回につき、135ユーロ(約1万7000円)と決して安くないですし、違反する回数が2回、3回と重なると、罰金の金額も上がっていくので。

メトロのホーム内は定期的に消毒される(6月12日撮影) ©雨宮塔子

 今でも、マスク着用が義務付けられている場所でノーマスクだと即罰金です。ただ、フランス人は抜け道を探すのも得意なので、ロックダウン中には買い物袋にわざと目立つように大根やネギを入れて、出かける人もいましたね。生活必需品の買い出しは許可されていたので、「買い物に行ったフリ」をして外出していたようです(笑)。

――もともと、フランスではマスクをする習慣がなかったと聞きますが……。

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雨宮 フランス人にとってマスクは「病人がするもの」という認識だったので、街中でしている人を見かけたことはこれまで1度もありませんでした。コロナ前のことですが、私がTGV(フランス高速鉄道)の中でマスクをしていたら、フランス語がわからないアジア人だと思われたのか、向かいの座席の親子に「この人、普通の顔して当たり前のようにマスクを着けてる」と笑われました。それくらい、日常生活の中でマスクをしているのは異様なことだったんです。

 でも今は一変して、みんなマスクをしていますね。当初、使い捨てマスクは手に入りにくかったこともあって、フランスでは手作りの布マスクをしている人が多いです。私も、韓国好きの子供たちに、韓国っぽい真っ黒なマスクをリクエストされたので、外出できない時間を使って家族の分を作りました。マスクを作るときは、「マスクをつけて息を吹きかけても、ロウソクの火が消えないように」と言われています。火が消えてしまうようなスカスカのマスクでは、ウィルスも通してしまうから、と。

家族3人分、2枚ずつマスクを手作りした(右の3枚。左の3枚は友人が作ってくれたもの) ©雨宮塔子

日本で感じた“閉塞感”の理由

――コロナで3万人超の死者を出したフランスと比べて、日本の死者数は1000人台と、感染拡大の規模にはかなり差があります。今回、日本に滞在されている間に、コロナに対するフランス人と日本人の意識の違いなどは感じましたか?

雨宮 フランスの場合、気をつけるべきところはきちんと気をつけるけど、長期戦に備えるには息抜きも必要だと考えている人が多いように感じます。私が出国する直前は、こんな状況でも、例年通りみんなバカンスの話に夢中でした。ロックダウン解除後に国内の移動は自由になったので、今年は国内旅行を計画する人がネット予約に殺到し、ホテルなどの料金が値上がりしました。

 また、感染予防にキャンピングカーでの旅行も人気で、キャンピングカーのレンタル予約は6月初旬にはいっぱいだったそうです。テラス席のみ営業を許可されたカフェやレストランも、やはり賑わっていました。もともとラテン気質ということもありますが、「コロナとはポジティブに付き合っていくしかない」という考え方なのかな、と思います。

カフェのテラスが開放され、人々でごった返している。中にはマスクをしていない人も(5月31日撮影) ©雨宮塔子

 それと比べると、日本人のコロナとの向き合い方には、もっと「心の重さ」を感じますね。慎重に慎重を重ねて行動しているというか……。罰金があるわけでも、誰かに強制されているわけでもないのに、これだけきちんと自粛しているというのはやっぱり日本人の国民性もあると思います。それだけ慎重だからこそ、フランスより感染者数も死者数も少ないのだと思いますが、同時に社会全体の“閉塞感”のようなものも、日本の方が強いのではないでしょうか。