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“実は観光しづらい”瀬戸内の島々 JR西日本が出した意外な解決策とは

2020/10/05
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「シースピカ」は双胴の高速船で、建造を担ったのはもちろん地元・瀬戸内は尾道の造船会社・瀬戸内クラフト。最高で24ノットで走ることができ、巡航時には22ノットで運航される。

 さらに「WEST EXPRESS 銀河」を手掛けたイチバンセンの川西康之氏にデザインを依頼し、観光に特化した快適な船を生み出したのだ。定員は観光バス2台分の90人。1階にはソファを主体とした座席を設け、足の不自由な方でも昇降機で上がることのできる2階は開放的なデッキ(スピカテラス)となっている。デッキの後部からは船の作り出す引波も間近に見え、瀬戸内の穏やかな風を存分に味わえる仕掛けだ。

1階の座席はソファが主体(筆者撮影)
2階のデッキに出ると潮風が(筆者撮影)

「双胴船にすることでスピードを出してもあまり揺れずに安定するんです。瀬戸内海はもともと穏やかで荒れることがほとんどないんですが、それでもデッキで風を浴びていただく上では大事なところかな、と。運航は瀬戸内海汽船さんのグループの高速船運航会社にお願いしています」

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広島から呉、そして瀬戸内の島々へ

 コースは、朝に広島港を出発すると、呉港で海上自衛隊の大艦隊を間近に眺め、江戸時代には朝鮮通信使が上陸していたという下蒲刈島で約70分、うさぎ島として知られる大久野島で約30分の停泊。尾道までの定期航路がある瀬戸田港を経由して昼過ぎに三原港に到着する。午後は三原港から逆にたどって広島を目指すが、午前中と違うのは下蒲刈島ではなく大崎下島に立ち寄ること。12月14日まで基本的に毎週金・土・日・月曜日に運航される予定だ(来年以降は3〜11月の運航予定)。

8月20日には就航披露式が執り行われた(筆者撮影)

「下蒲刈島は朝鮮通信使が上陸していた時代の文化財が残っていたり、大崎下島には坂本龍馬が密会にも使ったという御手洗の古い町並みが残っていたり、大久野島のうさぎはもうインスタ映え、ですか。往復シースピカに乗っていただいてもいいですし、山陽新幹線や呉線の新しい観光列車『etSETOra』、『WEST EXPRESS 銀河』などと組み合わせていただければもっと楽しい瀬戸内の周遊になると思います」

1階でも窓が大きく光が差し込んできた(筆者撮影)
お土産の数々。観光の難しかった島々に“海のレール“をかける鉄道会社のプロジェクト。その行方は…(筆者撮影)

 ちなみに、途中で広島のプリンスホテルや呉港にも寄港するのでこれらの港から乗船することも可能。定期船ではないので広島〜呉間だけの短区間利用などはNGだが、立ち寄り観光として下蒲刈島や大久野島、大崎下島(御手洗)などでの途中下船はでき、また大久野島経由で竹原港に渡る船とのセット商品や、広島方面からきて瀬戸田港で下船しその先へは別の交通手段を利用するなど、それぞれのスタイルにあわせて広島観光に組み込めるという按配になっている。

 今まで、観光で広島を訪れても宮島や原爆ドーム、カープ止まりだったという人も、シースピカでの“島たび”を加えてみてはいかがだろうか。それでこそ、瀬戸内観光の真髄にふれることができるはずだ。

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