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いろいろな作品から引っ張ってくる「キメラトレス」問題も

「同人誌を公式と誤認したファンは『あの映画はなんだったの?』となります。なまじ絵柄が似ていて原作と間違える人が数多く存在したこと、原作には存在しない最終話を勝手に創作して原作の世界観を崩してしまったのも問題になった理由でした」

――これは余談ですが、昨年のNHK紅白歌合戦では「AI美空ひばり」が話題になりました。マンガの世界では、2020年に「モーニング」(講談社)で、手塚治虫AIによる『ぱいどん』という作品(作者は「TEZUKA2020」プロジェクト)が掲載されました。これは手塚プロダクションの許諾を得たものですが、得ていなかったとしたら、どういう扱いになるのでしょうか?

「判例がないので難しいですが、AIのプログラムの組み方が問題になりそうです。画風を模倣するだけなら大丈夫ですが、例えば手塚治虫の全著作を取り込み、コマや絵を切り貼りしてコラージュのように作品を作ったら問題です。そもそもコラージュは、著作権侵害にあたりますから。

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 それと、同人業界では「キメラトレス」という問題もあって、ひとつの作品からトレスすると剽窃がバレやすいから、いろいろな作品から引っ張ってくる。顔はこの作品、胴体は別の作品、髪型はまた別の作家の作品から……といった具合です」

コスプレも広義には二次創作の一種である ©iStock.com

――以前、講談社「週刊少年マガジン」の増刊号「マガジンドラゴン」(2007年12月12日刊行)で、新人マンガ家の賞レースが企画されたところ、エントリー作品に「キメラトレス」が認められ、選考から除外されることがありました。

「プロの編集者でも見抜けないような、それなりのものができちゃうんでしょうね。これからもっと複雑化していきそうです」

――あらためて今回の判決は、どのような意義があったとお考えですか。

「この判決が、二次創作にも著作権があることが認知されるきっかけになって欲しいと思っています。これまでは二次創作というと、同人作家が日陰でコソコソやっていて、権利元がそれを黙認しているというイメージでした。しかし、その考え自体がすでに古くなっています。

 出版社や原作者がガイドラインを公表するようになってきているので、これからはガイドラインを守りながら、正々堂々と同人活動をしていくように、同人業界全体がシフトしていくのではないでしょうか。ある意味では、業界の潮目が変わるような判決だったと思います」