こうして大満足の視察を終えた担当者は、社長に報告をするのだ。ベトナム人は失踪や犯罪のイメージがあるかもしれないが、私が行った学校の生徒はとても優秀であいさつもしっかりしていて、費用も安いし……。
「じゃあ、20人ばかり入れてみるか」
こうして、送り出し機関とブローカーの巧みな連携で、日本語能力の低い実習生たちが次々と入国してくることになる。
親の土地や田畑を担保に借金を負う実習生たち
ブローカーはもちろん、実習生ひとり当たり月500円の利益で満足しているわけではない。
ベトナム人実習生が日本に旅立つまでの費用は、健全な送り出し機関の場合60~70万円といわれる。日本語学習や、そのための寮生活、食費、パスポートの取得代金、役所での書類手続きといった費用だ。ちなみにインドネシアやラオスの場合は30万円ほど、ネパールは50万円前後といわれる。物価や、その国の役所の「取り分」によってもさまざまだ。
しかしベトナムでブローカーが絡んだ場合、その額におよそ80~100万円が上乗せされて、送り出し機関から実習生へと請求される。
「実習生を目指すのはほとんどが、地方の農村の子たちです。もちろんそんなお金は払えない。そこで借金ということになるのですが、送り出し機関を経営するベトナム人は、元銀行員など金融関連の職歴を持った人が多いのです」(Tさん)
彼らのツテでブローカーの利益も含めた150~200万円ほどの借金を負うことになるのだが、その場合に担保となるのは実習生の実家の土地や家、田畑、それに両親の生命保険だ。
「加えて高額な金利が課されます。まともな送り出し機関であれば年利5%ほどですが、悪質な送り出し機関は20%を超える年利を要求してくる」(Tさん)
ほかに借りる当てもないし、そもそも地方の農村で暮らしていた実習生もその家族も、あまり知識を持ち合わせていない。スマホは持っていてもSNSと動画サイトくらいで、なにかを検索して調べようというリテラシーにも乏しい。そういう層にあえて営業をかけて「人買い」をしているわけだが、そのため実習生も「なにかおかしい」と薄々感じていながらも、借金の契約を交わしてしまえばもう日本へ行くしかなくなる。