というのも、実習生が日本に着いたときから、いやベトナムで借金をしたときからすでに「これだけの額を借りている人間が、この県のこの会社で来月から働く」といった情報、リストが出回るのだ。これは送り出し機関のベトナム人から、日本に住みグレーあるいはブラックな仕事をしているベトナム人に流され、活用される。
「来日間もないうちから、金利と低待遇にあえぐ実習生に近づき、親密になるベトナム人が必ずいるものです。仕事を放棄し、失踪する実習生はほとんど、こうした連中の誘いに乗ったものです」(Tさん)
借金を背負わされ、犯罪へと追い立てられ、分かり切った結末に追い込まれていく。ベトナム人の犯罪が多発している要因はここにある。その絵図を描いているのは同胞のベトナム人と、実習生を奴隷としか見ていない日本人だ。
自らを搾取した送り出し機関に就職する実習生も
「ベトナムには300~400の送り出し機関があると言われますが、そのうち半数くらいは悪質なブローカーが関与しているように思います」(Tさん)
こうした厳しい搾取を乗り越えて、借金を返済し、3年間の技能実習を無事に終えて帰国する優秀なベトナム人もいる。日本語や日本で学んだ技術を活かしてステップアップしていくケースもあるのだが、
「目立つのは送り出し機関に就職するパターンです」(Tさん)
今度は自分が流暢な日本語で、日本の中小企業の人事担当者を出迎える立場になるのだ。借金を背負わされた側が、借金を背負わせる側へと回る。そんな負のスパイラルがある。
技能実習制度という制度そのものを根本から見直し、悪質な送り出し機関やブローカーを排除する仕組みを作る必要がある。でなければ、ベトナム人による犯罪が日本ではこれからも増えるし、搾取されるベトナム人も減ることはないだろう。