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山好きなら八王子、学校教育重視なら浦和… コロナ禍で「衛星都市」が注目されるワケ

2020/11/17
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「会社ファースト」から「生活ファースト」へ

 都心に「通勤」しなくてもよいという社会がどうやら到来しそうなのである。通勤をしない、あるいはたまにしかしないというと、人々はこれからどこに家を求めるようになるだろうか。これまでは夫婦共働きであれば、とにかく会社に通勤しやすいという観点から家選びを行ってきた。いわば「会社ファースト」の家選びだ。都心に近い湾岸部などで既存の工場がアジアなどに移転や撤退をした跡地に建つタワーマンションなどがその好例だ。

 ところが今後は、夫婦は自宅ないしは近所のコワーキング施設で働けばよく、子供も近所に保育所があれば、そこに預ける。通勤という行為に毎日1時間半や2時間も費やしていた時間を子供との時間や自分の趣味の時間に充当できる。それならば、地価の高い都心部よりも郊外の自然環境の良いエリアの家を選ぶようになるのは自然な流れだろう。

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 もちろん都心には都心の良さがある。都心に拘って家選びを行う人がいても不思議ではない。したがって一部で言われているように都会からすべての人々が郊外に脱出していくといったシナリオは考えにくい。だが人々の家選びは「会社ファースト」から「生活ファースト」へと大きく価値軸が転換するなかで、郊外志向がかなり現れてくるのではないかと想像する。

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 また郊外であればどこでもいいかといえばそういうことではない。都会生活に慣れた現代人にとって畑や田んぼがあるだけの不便な郊外は誰も見向きもしないであろう。また、所謂郊外のニュータウンも住み心地が良いのはごく一部、その大半は住民の高齢化が激しく、また地域内には住宅以外に何らの利便施設もない、かつてあった店舗などもみんな閉鎖されているため、人気が復活するかについては期待薄である。

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 そこで注目されるのが郊外衛星都市である。衛星都市は、たとえば首都圏では都心に通うためのベッドタウンとして開発され、週末などの休日にちょっと買い物や飲食ができるような施設が整った街を指すが、その多くは通勤で都心に向かう電車などの発着点やターミナル駅周辺だった。つまり衛星都市の多くは通勤のための接点のような存在で、衛星都市内で「働く」といった機能を持ち合わせたものではなかった。だが、これからは衛星都市にコワーキング施設やサテライトオフィスのような「働く」拠点が整備されれば、人々はわざわざ都心のオフィスに通うことなく、自分たちの住む郊外の家から近い衛星都市に徒歩や自転車で通勤して、その地域で一日の大半を過ごすようになるだろう。