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新解さんが今回選んだ「忖度」の用例

 ですから、この9年ぶりの全面改訂、八版では一番最初に何を引こうか、ずっと考えていました。そうです、わたしは心して「忖度」を引いた。

「忖度は人を殺すと皆知った 福岡 ナベトモ」。この見事な川柳は、毎日新聞令和2年5月6日付「仲畑流万能川柳」に掲載されました。

 そして、新解さん八版を見て下さい。

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「忖度 〔「忖」も「度」もはかる意〕自分なりに考えて、他人の気持ちをおしはかること。『相手の立場や気持を―する』〔近年、特に立場が上の人の意向を推測し、盲目的にそれに沿うように行動することの意で用いられることがある。例、『政治家の意向を―し、情報を隠蔽する』〕

 七版「忖度 自分なりに考えて、他人の気持をおしはかること。」

 六、五、四、三、二、初版「忖度 『他人の気持をおしはかる』意の漢語的表現。」

©️文藝春秋

 忖度なんていう言葉、モリカケがなかったら、普通に暮らす人は、読み方も間違うだろうし、口にもしないし、一度も書かないし、一生知らないままだったはずだ。少なくとも、わたしはきっとそうだった。福岡のナベトモさんも忖度で川柳を作らなかっただろう。新解さんは、辞書の姿で怒っている。そして義憤を感じている。

「義憤 こんなまちがった事があっていいものかと、世のため人のために憤慨すること。」

 赤木俊夫さんの身に起こったことを考えれば、このままでいい訳がない。誰が何をして、一体何があったのか、奥様と国民にちゃんと説明して欲しい。真実を知りたい。

 隠蔽がまかり通れば、同じ事がこの先も平気で起こる。

「隠蔽 見られたり知られたりしては困る物や事を、意図的に隠しておくこと。」

 これは他人事ではないのです。新解さん、偉いね。やる時はちゃんとやる人だ。ま、人じゃないけど、辞書だけど。新解さんにずっとついてきて良かったよ。わたし、嬉しい。お酒でも、ちょっとつけてやりたい気分です。

©️文藝春秋

 八版の「栓」の用例は、相変わらず「鼻に―をする」で苦しいし、「いびり」の用例は初版からずっと「嫁―」で嫌だけれど、「忖度」をこうして説明した新解さんは、とても立派です。