非婚で精子提供を受け、妊娠することは違法ではないが……
これまでも藤田さんは韓国のテレビ番組で自身の卵子を冷凍保存していることや出産のための体作りをしていることをたびたび公開してきており、非婚で出産することついて「とても利己的なことは分かっている」と逡巡し、葛藤する心情についても語っていた。
韓国で関心が集中したのは、藤田さんの「韓国では体外受精など(非婚者には)すべてが不法だった」という部分だ。
韓国では、精子・卵子の金銭的取引は法で禁じられているが、精子・卵子バンクからの提供は合法でも違法でもない。
また、藤田さんの発言を受けて世論が盛り上がると、韓国の保健福祉部は、生命倫理法では「人工授精、体外授精のための精子の採取については、配偶者がいる場合は書面による同意が必要だが、配偶者がいない場合はその規定はない」とし、「健康保険や政府の支援が適用されないというだけで(非婚状態でも)体外受精などの施術は受けられる」という見解を出した。
しかし、大韓産婦人科学会は、「精子供与施術は原則的に法律的婚姻関係にある夫婦のみを対象に施行される」という「生殖補助術(人工授精)倫理指針」を出していて、この指針を元に施術などを行わない病院がほとんどだったといわれている。
未婚者や非婚者は対象外という「少子化政策」
2016年、生殖医療発展などを目的に設立され、公共の精子バンクを保有する「韓国公共精子バンク研究院」のパク・ミンジョン教授は言う。
「韓国ではこれまで非婚者女性の妊娠、出産について公では議論されておらず、小百合さんのニュースがきっかけとなって生殖補助医療に関する法整備についての議論が出ました。
欧州ではすでに未婚、非婚者や性的少数者への精子提供や人工授精が許可されていますが、これは妊娠と出産の選択は国が介入する問題ではなく個人の問題とされているからです。韓国も若い世代を中心にこうした見解がコンセンサスになりつつありますから、こうした認識の変化に伴う法の整備が必要になっています」
2019年、韓国の合計特殊出生率は0.92人と2018年の0.98人からさらに下回り、OECD(経済協力開発機構)の中では連続、最下位を記録している。韓国政府は少子化のためのさまざまな政策を打ち出してはいるが、「そのすべてが父親、母親、子どもといういわゆるスタンダードな家族だけを対象にした政策ばかりで、未婚者や非婚者が増えている実態と合っていない」(30代非婚者の女性)という声が高まっている。