11月26日、2017年に神奈川県座間市のアパートで男女9人が殺害された事件の裁判員裁判が結審した。検察側は死刑を求刑した。強盗、強制性交等殺人などで起訴された白石隆浩被告(30)の被告人質問を聞いていると、自身と、被害者の母親に関するエピソードがよく出てきた。

 改めて、法廷でのやりとりを振り返る。

白石隆浩被告 ©文藝春秋

「母親が心配している」という言葉を聞いて

 まず、殺害をしなかった女性3人のうち、Yさんは、「母親が心配している」と言ったことで、白石被告は実家へ帰宅することを許している。

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 実は、6人目の被害者だったFさん(17歳、女性)も「母親が心配している」と言って、白石被告のアパートから帰ろうとしていた形跡がある。しかし、白石被告もFさんも寝てしまい、最初に白石被告が起きる。そのとき、Fさんが寝ている顔をみて、性欲が増したことから、レイプして殺害することを思いついたという。もちろん、月5000円でもいいから、お金を引っ張れるのなら、生かしてヒモになることを考えていた。ただ、「母親が心配している」という言葉を聞いて、女性を自宅に帰そうとする心情が湧いた。

 一方で、同じように「帰るかもしれない」と思ったEさん(26歳、女性)は殺害している。元夫とのやりとりのために、白石被告の部屋を何度も出入りしていた。Eさんからは、「夫とうまくいっていないことや、他にも彼氏がおり、その彼氏ともうまくいってないということを聞いていた」というが、実際には離婚をしていたので「元夫」になるし、彼氏がいたとしても不思議ではない。「子どもがいると聞いていたか?」と問われると、白石被告は「話が出ていない」と答えた。つまり、Eさんの母親の話と、Eさん自身が母親であることについての会話はなかった。

裁判が行われている東京地裁立川支部 ©渋井哲也

「母親」や「母性」へのこだわりがある?

 白石被告は「深い後悔がある」として4人の名前をあげたが、その一人がEさんだ。帰ろうとしていたときに、もし、いずれかの話があれば、殺害しなかったのだろうか。

 検察官は、Eさんの元夫への謝罪を促されたとき、白石被告は「まだ未来のある子どもさんに、しっかりと母性を伝えることができない状況にしてしまい、申し訳ありませんでした」と述べた。わざわざ「母性」という言葉を使った。白石被告は、「母親」や「母性」へのこだわりがあるのかもしれないと筆者は感じた。