日本は、生まれ育った家庭と地域によって何者にでもなれる可能性が制限されている、「緩やかな身分社会」である。しかも、それは昨日今日のものではなく、戦後社会はずっとそうだった――。早稲田大学で教育社会学を教える若き准教授の著者は、膨大な社会調査のデータを分析し、目を背けたくなるような厳しい現実を読者に叩きつける。
「教育は誰もが経験するもので、自分の経験を元にした思い込みで語りがちです。文部科学省が進める教育改革ですら、そうした傾向が見受けられますが、著者はデータ重視の議論で、現状を変えようとしています」(担当編集者の河内卓さん)
刊行直後から出口治明氏ら識者による書評で高く評価されて話題を集めていたが、さらに追い風となったのが、本書が批判する「生まれ」の格差を是認するかのような、萩生田光一文部科学相による「身の丈」発言。そして現在は、コロナ禍で露呈した家庭の教育環境の格差が、本書の問題意識と通底するものとして受け止められている。
「本書を読むことで、有利な立場の人がさらに教育を意識し、格差の再生産が強化されるかもしれない。そんなジレンマを感じながらも、よりよい社会をつくるために、まずは問題を知らしめなければ始まらない。そう考える著者の熱意も広い読者に届いている理由かもしれません」(河内さん)
2019年7月発売。初版9000部。現在12刷5万1900部