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 実は報道から数年たって、その“魔球”が完成したのか当人に伺ったことがある。

 結論から言えば、“魔球”は未完成のままに終わってしまったらしい。本人はこんな風に振り返っていた。

渡辺俊介さん ©文藝春秋

「動作解析で調べると、スカイフォークって現実的には不可能なんです。実際にスカイフォークの軌道にするには、重力に頼らないといけないので相当、遅く投げることになる。かつ、角度もかなり上に投げ上げないといけない。

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 でもその角度だと打者は『見逃したら絶対にボールになる』のがわかってしまうんです。変化球で一番大事なのは、ストライクゾーンにいきそうなところから消えるとか、真っ直ぐと同じに見えるとか、そういう部分。見た瞬間に真っ直ぐじゃないとわかるボールではダメでしたね」

『ドカベン』のスカイフォークはストライクゾーンから消えるのではなく、一度浮き上がってから落ちる。その軌道を目指そうとすると、どうしても打者にすぐ見極められてしまうのだそうだ。

 そしてリアル版スカイフォークには、もうひとつ大きな欠点があったという。

「まず盗塁されちゃいますね、あれだけ球速が遅いと。ランナー1人出たら三塁打と一緒になってしまう(笑)。そうなると実戦では使えない」

 やはりマンガの必殺技を実現するのは、様々な要素が絡み合い、なかなかハードルが高いのだ。

渡辺さんは2005年には自己最多となる15勝をマーク ©文藝春秋

「空振りを獲るために落ちるボールが欲しい」

「最初はプロ入り2年目くらいの時に、左打者から空振りが取れなくて。高めのまっすぐでは空振りがとれるんですけど、それも慣れてこられると見逃される。じゃあどうしようという時に、フォークボールを練習したんです。空振りを獲るために、とにかく落ちるボールが欲しいと思って」

 先のスポニチの記事の際も、そんな意識で落ちるボールを練習していた最中だったそうだ。渡辺の中で現実的にはシンカーに近いボールを考えていたという。