1ページ目から読む
2/3ページ目

 こうした時勢の中、多くの人が不安定な経済基盤に立たされていたこと、さらに生活保護の不正受給問題がニュースなどで盛んに報じられたことから、生活保護受給者全体に対するイメージが悪化し、公然とバッシングが行われるようになった(ちなみに厚生労働省によれば、2015年度における全国の不正受給額は生活保護費全体のわずか0.45%であり、99.55%は適切に、保護が必要な人たちへ支給されていることがわかる)。

 そして、いま大きな問題となっているのは、このような風潮によって国民が「生活保護を受給することは悪いこと、貧困は恥ずかしいことだ」という認識を共有していて、本当に金銭的に困窮している人々でさえ生活保護の受給や公的支援にたどり着けないばかりか、助けを求めることすらできなくなっている社会の構造だ。

©iStock.com

「生活保護を受けるほどまだ落ちぶれていません」

 私は以前、債務整理専門の司法書士事務所に所属しており、現在は文筆家として貧困問題にフォーカスを当てて様々な媒体で取材、執筆、問題提起を主軸として活動している。貧困に陥っている当事者への聞き取りをこれまで数百件以上行なってきたが、ほとんどの場合、彼ら彼女らは誰かの助けを得ることに抵抗を感じている。

ADVERTISEMENT

 特に生活保護の受給には強い拒絶反応を示すことが多く、本人が体を壊して仕事を失い、来月の家賃すら払えない状態であっても「自力で頑張りたいんです、生活保護を受けるほどまだ落ちぶれていません」「生活保護を受けていることが周りに知れたら、子どもがいじめられるかもしれない」というように、世間の目を気にする様子が目立った。そうした強迫観念に負け、助けを求められないまま、結局自ら命を絶った人も見てきた。

 たとえ本人が生活保護を申請することを決意しても、行政の相談窓口で申請を違法に拒否される「水際作戦」により追い返され、公的支援を受けられず、必要な福祉に繋げられることもなく、路上生活を余儀なくされたり、孤独死するケースは跡を絶たない。

 特に今、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、窮地に立たされる人が増加している。先日私に連絡をくれたとある男性は、コロナ禍で仕事を失い、寮を追い出され、全財産が残り100円を切っていた。「今日食べるものもない」と話す男性は、生活保護申請のために役所へ相談の連絡をしたが、「のちほど連絡する」と言われたきり折り返しもなく、絶望の淵に立たされている最中だった。

 民間の支援団体を頼ることも考えたが、一体どこに連絡をすればいいのかもわからない。自暴自棄になっていたとき、私が以前、生活保護制度について書いた記事をたまたま目にしてメッセージを送ったのだという。