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6600万年前の巨大隕石衝突…地面を掘って“恐竜絶滅のナゾ”を解明した科学者の情熱

2021/01/17

なぜ急激に気温が下がったのか?

 また、隕石が落ちた場所は浅い海だったことが分かっているが、その場所の海底に積もっていた鉱物に含まれる硫黄が、衝突による高い圧力で抜けてしまっていた。硫黄は空気中の酸素と結びつくと、硫酸塩エアロゾルになる。硫酸塩エアロゾルは、大気汚染物質PM2.5の主な成分として知られているが、気温を下げる効果があり、温室効果ガスとは逆の働き方をする。

 6600万年前、大規模な森林火災で舞い上がった膨大な煤と、大量に発生した硫酸塩エアロゾルは、ともに衝突後の地球全体を急激に冷やしただろう。恐竜をはじめとする地球上の生命体の4分の3を絶滅に追い込んだ、長く厳しい冬の到来である。――これが、地面を掘って判明した、恐竜絶滅までの経緯だ。

 ただし、溶けた岩石がむき出しになっていたクレーターで命が復活するのは早かった。クレーターに押し寄せた海水にはプランクトンが含まれており、衝突の2~3年後にはそれがクレーターの中で生きられるようになった。また、遅くても3万年以内に、多様な生態系がかつてのクレーターの中に復活していたことが、土砂の中に痕跡として記録されている。これは同じ時期の地球上でもっとも早い復活劇だった。

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 どうやら、隕石衝突は大量絶滅という大惨事を引き起こした一方で、激変した環境により良く適応する生物にいち早く発展する機会を与えたようだ。これはその後の生命の進化に大きな影響を与えただろう。

©iStock.com

 隕石の衝突は、地球にとって大きな災難である。しかし、地球を青く生命に満ちた星に変えてくれたのもまた、隕石なのだ。いま地球上にある水と有機物は、もともと宇宙の小惑星や彗星の中に含まれていたものだったと考える科学者は多い。最近の研究で、太古の地球に降り注いだ隕石の衝突によってタンパク質を作るアミノ酸ができたことも分かってきた。これらが地球に衝突しつづけたことで、地球に海と生命体ができたのだ。

 地球には毎日、小さなものを含めると100個以上の隕石が飛来しているという試算がある。宇宙からの贈り物は、今日も地球に降り注いでいるのだ。そして、地球と宇宙をつなぐ秘密は、地下に眠っている。地下を探ることは、地球と宇宙の謎を探ることなのだ。

6600万年前の巨大隕石衝突…地面を掘って“恐竜絶滅のナゾ”を解明した科学者の情熱

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