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6600万年前の巨大隕石衝突…地面を掘って“恐竜絶滅のナゾ”を解明した科学者の情熱

2021/01/17
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隕石衝突で地下の岩石が持ち上げられた?

 このバラバラになった岩石は、どうやら衝突前には地下5~10kmか、あるいはもっと深いところにあったらしい。だが、それが隕石衝突によって5km以上も持ち上げられたようだ。

 隕石衝突の圧力によって、上にあった岩石が地下深くに押し込まれる……という状況は想像しやすい。だが、地下深くにあったものが、逆に地上近くへ持ち上げられるというのは、一体どういうことなのだろうか?

衝撃痕のある岩石。右から左に衝撃が伝わったことがわかる ©D.Smith/ECORD/IODP

 科学者たちはコンピューターを使ったシミュレーションを繰り返し、その答えは「ミルククラウン」にあるのではないかとの結論に行き着いた。

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 牛乳が入ったコップを想像してみてほしい。その水面に、新たな牛乳を一滴だけ落としてみると、水滴が当たった箇所は大きく凹むと同時に、その周りは王冠のような形に一瞬だけ盛り上がる。それが「ミルククラウン」だ。

周囲の岩石は瞬間的に蒸発した

 しかし、ミルククラウンはすぐに沈んでしまい、凹んでいた場所には周囲から牛乳が押し寄せることで、その凹みの部分が今度は逆に高く盛り上がる。これと同じ原理で、地下深くにあった岩石が、隕石の衝突によって浅いところにまで持ち上げられ、固まってしまったようなのだ。

 隕石衝突の瞬間を再現してみよう。科学者たちの検討によると、隕石の直径は12km。それが地球に激突したとき、とてつもない衝撃度と、それが生み出す超高温によって周囲の岩石は瞬間的に蒸発し、その場には直径80~100kmの巨大な空洞ができた。

©iStock.com
ミルククラウン現象。水面に牛乳を一滴だけ落とすと、水滴が当たった箇所は凹み、その周囲は王冠のような形に盛り上がる(上図)。だが、凹んでいた場所にはすぐに周囲から牛乳が押し寄せ、その凹みの部分が今度は逆に高く盛り上がる(下図)。これと同じ現象が、隕石衝突後に起きていたと考えられる ©iStock.com

 直後、ギリギリ蒸発を免れ、空洞の周りに残っていた岩石(溶けて液体状になっている)が、空洞に向かってすぐに押し寄せた。そこで「ミルククラウン」現象が起きたことで、空洞が埋まっただけではなく、その勢いで真ん中が持ち上がり、そのまま固まった……。こうして、中心部分が盛り上がった、巨大なクレーターが出来上がったのだ。

 科学者たちが井戸を掘ったのには、もう一つ狙いがあった。それはクレーターを覆う土砂を調べることだ。実は、クレーターの岩石そのものよりも、この土砂の方こそ重要だと考える科学者は多い。衝突の後に何が起きたのか、恐竜の絶滅を引き起こした原因は何だったのか……そうした謎を解く鍵は、その土砂の中に眠っているからだ。