初めてのミーティングの内容は……
M大の事務局にメールを送ったところ、まずは講師によるレベルチェックがあるという。9月17日の夜に自宅でZOOMに接続すると、画面にあらわれたのはLさんという、のんびりした口調の中国人のおじさんだった(後に彼が担当講師となる)。
「あ、どうも、ニイハオ」
「おお、ニイハオ。君が安田同学(ān tián tóng xué)かね?」
「はい。コロナの影響で活きた中国語に触れる機会が減ったので……」
「ほうほう。君は中国語が上手だねえ。じゃ、通訳実践講座で」
2会話くらいしか話していないのに、ひよこ鑑定士がひよこのオスメスを鑑定するような速度で最上級の通訳実践講座に割り振られた。Lさんに尋ねてみると、学生数にはまだ余裕があるらしい。
そこでミーティング終了後、私が友人知人に声をかけて回ったところ、中国語専攻の女子大生のR嬢が自分も勉強したいと手を挙げた。結果、私とR嬢というスパイ2人で、世間でいうところの「スパイ養成機関」──。もとい、M大学孔子学院に潜入することになったのである。
老師っぽい老師に教わる
「いやー、私の若いころは、中国人が日本語を勉強するのは商売やキャリアアップのためと決まっていたものだが……。最近の若い子はアニメが好きだから勉強するようになってねえ。驚くべき変化だ」
1週間後、私とR嬢はそれぞれM大の孔子学院ZOOM講座に出席し、昔話を語るLさん……、もといL老師の言葉に耳を傾けていた。ちなみに「先生」は中国語で「老师(lǎo shī)」と呼ぶ。たとえ相手が20歳のお姉さんでも「老師」なのだが、このL老師は1980年代ごろに某地方都市のテレビ局でアナウンサーをやっておられたという大ベテランであり、いかにも老師っぽい感じの老師であった。
クラスでいっしょに学ぶ同学(tóng xué:同級生)は、中国国営放送のアナウンサーばりの完璧な発音で音読をおこなう20代の社会人女性Aさん、もともとL老師の教え子らしいM大学の女子大生Bさん、毛沢東の生前を知っている60代くらいのおじさんCさん、そして他大学の女子大生であるR嬢と、私である。
なかでも努力家のAさんは非常にレベルが高く、標準中国語の発音の音韻の美しさや、座学で身につけられる表現(ことわざなど)の語彙力は私を上回っていた。実力が伯仲する相手と語学教室で競い合える状況は珍しい。学習環境はかなりいい感じだ。