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中国共産党の“スパイ養成機関”に潜入…「孔子学院」を6ヶ月どっぷり受講して見えた真実

2021/02/17
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意識の低いチェーン店「沙県小吃」との共通点

 さて、受講を終えてから詳しく調べなおしてみると、どうやら日本の各大学の孔子学院は、M大学と立命館大学(学外者の場合)で半年間のオンライン講義の学費が1万6000円も違っていたり、桜美林大学のように2020年度はまるごと休講していたり、地方私大などでは中級コースまでしか開設していなかったりと、中国国家の世界戦略の一端とは思えないほど方針の統一感が欠けている。

 各地の孔子学院の公式ホームページの様式も完全にバラバラだ。立命館大学やM大学はページの作りがしっかりしていてカリキュラムや受講方法がわかりやすいが、工学院大学や愛知大学はややわかりにくい。なかには岡山商科大学のように、ページ内容がほぼなくPDFファイルがアップされているだけ……という孔子学院すらある。

「孔子学院」という看板は借りているものの、各地の運営実態は大きく異なる。ここから私が思わず連想してしまったのは、中国最大のファーストフードチェーン「沙県小吃」だった。

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 沙県小吃は中国全土に6万店を擁するが、各店舗の看板も店内インテリアも、価格やメニューも完全にバラバラ。チェーンとしての統一感はゼロという、いかにも中国のローカル社会っぽいユルい雰囲気が漂う飲食店である。

意識の低いチェーン店なのに、日本にも何軒か進出している沙県小吃(高田馬場店)。適当な感じのロゴがステキだ。『百度百科』「沙県小吃」より。

 チェーンの元締め的な存在である福建省の沙県政府は、個々の店舗の経営には関与せず、「沙県小吃」の看板のもとで何をやるかはフランチャイズオーナーの裁量に任されている(ただし、料理教室や原材料は沙県人脈を中心に提供されるなど、ブランド内で一定の共通要素もある。詳しくは田中信彦氏のこの記事を参照)。

 孔子学院についてもこれと同様に、各大学ごと、さらには各講師ごとの裁量がかなり大きいのではないだろうか。M大学のL老師に当たった私は、きっと大当たりだったのである。

スパイ養成機関、求む!

 事実、かつて劉暁波や王丹の翻訳・通訳を担当した経験を持つ中国民主派シンパの先生(日本人)が、2018年ごろまで某大学の孔子学院で教えていた実例もある。なお、劉暁波は2008年に民主化アピール「〇八憲章」を発表してノーベル平和賞を受賞した中国民主化運動の精神的指導者(2017年に病死)で、王丹は六四天安門事件の学生リーダーの筆頭だった人物だ。

 こちらの先生については、私のように講演会に1回登壇したというレベルではなく、某大学の孔子学院で講義を受け持っていた本物の「講師」だった。おそらく大学側の人事的な都合から孔子学院に配属されたと思われるが、世間にはこのくらいフリーダムな孔子学院すら存在するのだ。

中国から寄贈された孔子像とパンダのマトリョーシカが並ぶ、某大学の孔子学院の事務室。おそらく各校ごとにノリがかなり違うのではないかと思われる(安田撮影)

 もちろん、各機関・講師の裁量が大きいということは、民主派孔子学院やストイックな孔子ブートキャンプとは、完全に逆のパターンの施設も存在し得るということでもある。

 もしかすると日本のどこかには、朝から晩まで受講生に習近平の著作を学習させ、紅歌(中国共産党のプロパガンダ歌謡)を歌わせ続ける「虎の穴」さながらのスパイ養成講座を開講する孔子学院もあるかもしれない。見つけた方は、面白そうなのでぜひ私にご一報をいただきたい。

 さておき、中国政府の対外政策のおかげで学費は激安。なのにレベルは非常に高い。中国人民の血税を使って自分のスキルアップができて、おまけに取材の結果をこうして記事にできるのだから、私はもはや孔子学院に足を向けて寝られない。

 来年度もどこかの教室のZOOM講義に紛れ込んでみようか。かなり本気で検討中である。

◆ ◆ ◆

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中国共産党の“スパイ養成機関”に潜入…「孔子学院」を6ヶ月どっぷり受講して見えた真実

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