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 しかしインターネットが発展、普及して世界は様変わりした。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件ではブログが、2011年3月11日の東日本大震災では個人が撮影した動画が、それぞれ日常の崩れ去る様子を伝えた。それを目の当たりにし、世界の崩壊がロマン溢れる一過性のものではなく、どこまでも現実と地続きで、個人的で、容易には終わらない地味な長い戦いとなることを我々は知ってしまった。

 特に新劇場版の3作目にあたる「Q」の直前に起きた3.11が庵野監督自身や作品の内容になんの影響も与えていないはずがない。ただでさえ監督、スタッフ、そして観客が同じだけ年齢を重ね、人生を送る中でその価値観も変化しているのだ。当時と今では世の中の14歳という年齢に対する考え方もだいぶ違う。

 新劇場版の制作において、庵野監督は「現実世界で生きていく心の強さを持ち続けたい」と声明を出した。一体どのような気持ちで「エヴァ」の最後と向き合ったのだろうか。「シン」鑑賞後には様々な思いが頭の中を駆け巡ったが、劇中で理解しきれなかった謎のようなものを読み解くよりも、庵野監督の内容に対する思いが知りたいと思った。

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番組史上、最長の密着期間で作られた「プロフェッショナル」

 本作についてはシリーズ最終作ということに加え、諸事情ですぐに劇場へ足を運べない人がまだ多いせいか、Twitterでは極力ネタバレや物語そのものへの言及を避け、「観てきた」という報告にメモ程度の感想を添えただけの投稿を多く見かける。だがそんな中で大いに話題になっているのが3月22日にNHKで放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」だ。

「プロフェッショナル」は様々な分野の第一線で活躍する人物に密着し、その仕事ぶりや発言から文字通り「プロフェッショナルとは何か」を炙り出す人気番組だ。この大作アニメがどのようにつくられたのか、時代が変わる中で葛藤はあったのか、など、その答えが知れるかもしれないと、リアルタイムで視聴した。

 今回の「プロフェッショナル」はその歴史でも最長の1214日という長期密着期間で構成されており、TVのドキュメンタリーとしては唯一「シン」の制作現場を映し出し、監督の作品に賭ける姿勢や想いを肉声で引き出すことに成功した貴重な内容となっていた。