アングラ時代を経験しているのが自分にとっての財産
――今の物静かなイメージからは想像がつかないですが、俳優になられる前は、パンクバンドや漫画家としても活動されていました。
田口 (笑いながら)はい、そうですね。僕、アングラ演劇とパンクムーブメントに一番影響を受けているんです。それらの教えって、簡単に言えばDIY精神。「自分のやりたいように好きに生きろ」っていう教えなんです。その洗礼を受けちゃったので、そういう思いが強いんですよね。人生1回きりなので、その時やりたいと思った事を、できるだけ自分で実現化していくっていう。
――それが、バンド活動や演劇だったと。
田口 20代の時はバンドをやったり、アングラ演劇をやったりしていました。その頃は、なんというか…よく言う「自分探し」と言うか。何者でもない自分が社会にどういう風に参加できるのかっていうのを模索していた時期でもあったんです。当時は時代背景もあって、自由に色んなことをできたのは、ラッキーだったなと思っています。
――いわゆるアンダーグラウンドと呼ばれるシーンから、NHKのドラマに出演されるようなメジャーとして活躍できるようになった理由は、ご自身ではどう思っていますか?
田口 うーん…本当にたまたまだと思います。出会いが良かったし、時代の流れがラッキーだったんだと思います。80年代から90年代にかけてって、犯罪ぎりぎりの事とかやっても「本当にやりたいんだったらしようがないね」って、大らかだったんです。
インディーズのバンドとかアングラ演劇でも「ステージ上だったら何をやってもいいんだ」というある種の「許し」があって、周りも認めていたんですよね。嫌われるけど(笑)。その時代を経験しているっていうのは自分にとって財産だし、今でも大切にしたいですね。
これからやってみたい役は…
――田口さんが考える、俳優という職業の魅力って何でしょう?
田口 個人だと、1つの風景しか見えないじゃないですか。でも俳優という仕事なら、行ったことがないような場所に行けたり、一生着ないような洋服を着られたりする。そして現場に立つと、個人では見えなかったような風景が見られる。そういうトリップ感があることが、醍醐味だと思います。
――色々な役をやりつくしているかと思うのですが、これからどんな役をやりたいですか?
田口 本物の年寄りですね。モノホンの枯れセンってやつですか。狂ったような行動が、自分の意志なのか、痴呆なのかっていうような(笑)。これからそういう役がどんどん説得力を増しますよね、63歳にもなると。自分にとっても未知ですから、楽しみです。
撮影=三宅史郎/文藝春秋