「ポンタならどう叩くか」を考えて書いた曲
――そうしたスタンスに、この時期のポンタさんは応えていたわけですよね。ポンタさんって巷間評価されている以上に、非常に肯定的な意味での“歌伴ドラマー”だったと思うんです。一方で「SPACY」での演奏を聴いていると、歌と演奏とがアンサンブルの中で拮抗し合ってもいる。バランスとして非常におもしろいと思うんです。いわゆる伝統的な意味合いでの歌伴でもない。
山下「違いますね」
――違う何かが起きつつある、その境目を捉えていたような気がします。
山下「僕自身がそもそもバンド志向。コンボ編成で作るリズム・セクションが曲の善し悪しを決める、今でもそう思っているから。歌謡曲の作り方はまた別ですよ。60年代から70年代のアイドル歌謡の構築って実はバカにできなくて、麻丘めぐみにしろ岩崎宏美にしろ、編曲や録音の面からみると、歌の帯域では楽器があまり邪魔してないんです。ドラムなんか聞こえないくらい小さく絞ってある。そうすることによって、歌が少々パワー不足でも前に出て聞こえる。なかなかのエンジニアリングがほどこされている」
――歌を中心に設計されているわけですね。
山下「そう。一方僕らは歌とリズム・セクションがバトルしないとダメだという感覚を抱いて育ってきた。フォークではなく、ジャズやラテンを聴いてきたからね。そのためにオケをどう構築するか。ロー・インターバルといって、音の塊がピラミッド型になるように低めに構築して、その上に歌を乗っける。そうすることで歌とリズム・セクションの関係が有機的に働く。そういう自意識はこの頃からありました。
だからポンタが『DANCER』を好きだと言ってたというのを読んで、けっこううれしかった。特に詞がいいと言ってくれていて。『DANCER』自体、ポンタだったらどう叩くだろうと思いながら書いた曲だったから」
――当て書きして作った。それはドラムに対してですか。
山下「ああいう16ビートを叩ける人が他にいなかった。ちょっとルーズなところがすごく好きだったんです。だからドラムから始まる。ドラムで始まって、延々そのパターンで行く」
――一方で、ドラムが主導しているにもかかわらず、インナーな空気があって。
山下「すごく内省的な歌だから」
――そのあたりの塩梅が不思議な曲でもあります。
山下「日本の場合、バンド演奏ができる住宅環境がないから。家で弾き語りしながら作曲していたわけだけど、それだとこういうグルーヴは出ないんです。ポリリズムって、ドラムとベースで試行錯誤していかないと生まれてこない。日本の歌ものってそこが弱くて、どんなにイントロが格好良くても、歌が出てきた途端ガクッとテンションが下がるところがある。
僕がマシンでリズムを作るようになったのにも、弾き語りの呪縛から離れようとする狙いがあった。最初にポリリズムを構築した上でメロディを考えると、グルーヴに即したメロディが作れる。『DANCER』を作った頃には、まだ弾き語りの残滓のようなものが感じられるんだけど」