「5年前、当時の雇い主が、若年性認知症と診断されて、1年半後に他界した。それが彼女を、彼女のパーソナリティーを変えたのを目にした。同時期に友達の父も若年性認知症になり施設に入った。この二つの経験が、認知症について深く考える機会となったんだ」と語るのはハリー・マックイーン監督37歳。2作目の『スーパーノヴァ』で、認知症というテーマに取り組む。主演のカップルを演じるのは大物俳優コリン・ファースとスタンリー・トゥッチだ。
「スタンリーは脚本に強く共感してくれた。物語やキャラクターを気に入ってくれて、非常に重要な作品になりえると言ってもらった。主演のカップル役には、知人同士の俳優を考えていた。親密で張り詰めた空気のある映画なので。そこでスタンリーがコリンを提案してくれたんだ。知らなかったけれど、2人は私生活で親友だったから」
脚本を書くため、ロンドンの病院でボランティアをしながら認知症について勉強した。
「認知症の人たちや家族の現実などからインスピレーションを得て脚本を書いたんだ。様々な体験を大きな鍋に投げ込み料理して生まれたのがこの物語だ。実体験なしに、この脚本は書けなかっただろう」
と3年以上に及ぶリサーチを振り返る。
ピアニストのサム(コリン・ファース)は長年の恋人である作家のタスカー(スタンリー・トゥッチ)を連れ、家族や親友が集う英国北部の湖水地方の実家を訪ねる旅に出る。認知症と診断されたタスカーと最後まで人生を分かち合いたいと願うサム。背景となる湖水地方の大自然は、2人の直面する過酷な現実とは対照的に美しい。
「サムやタスカーの家を背景に設定していたら、ありきたりの家族ドラマになっていただろう。映像の点で見ごたえある映画にしたかった。旅という形式をとると面白くなると思ったし、同時に心の旅と実際の旅を重ね合わせてみた。それに英国映画でロードムービーって、殆どないしね」
60代のカップルと認知症についての映画、となるとシルバー世代向けの映画? と考えがち。しかし英米で上映された時、若い世代からの反響が驚くほど大きかった。
「死、愛、セックス、死期を迎えた人をどう世話するか。認知症がテーマではあるが、この映画はそれ以上の意味があると思っている。60代のカップルの話だが、高齢者の恋愛がテーマでもない。様々な世代の人が熱く反応してくれてとてもうれしい。例えば認知症は近年頻繁に話題にのぼるようになった。医学リサーチが進んで理解が広がってきたこと、多くの人が認知症になり得るのを認識するようになったことが理由だろう。イギリスでは認知症を患うことがもとで死に至る人が多い。患者と患者に関わっている人がいかに多いかと考えると、社会的に非常に大きな問題であると言える。だからこの映画が、より多くの人に認知症について考える機会を提供できたらと思う。そして理解が広がっていけば、と」
Harry Macqueen/1984年、英国レスター生まれ。俳優を経て監督へ。自主制作、自作自演のデビュー作『Hinterland』(2014)で注目される。2作目にあたる本作は、すでに米ニューヨーク・タイムズなどで絶賛された。
INFORMATION
映画『スーパーノヴァ』
7月1日公開
https://gaga.ne.jp/supernova/