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「人間、不器用でいいんだよ」 野村克也の誕生日、追悼試合で野村家がつけていた“マスクの秘密”

『遺言 野村克也が最期の1年に語ったこと』に寄せて#2

2021/07/02

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, スポーツ

note

野村ノートに何を書くか?

 来場した観客全員に、【野村ノート】と銘打ったノートがプレゼントされた。ページをめくると、野村の笑顔とともに、名言の数々が由来も含め、記載されている。

「手に取った人たちが、自分にとって心に響く言葉を書き連ねてほしい。前に進もうと言葉を尽くしてチームを育てた野村克也という存在を忘れないでほしい」という阪神球団の切なる願いが込められていた。

©文藝春秋

 コロナ禍によって、世の中の人々は強いストレスに耐え、格差はさらに広がっている。その苦しさの反動か、インターネットのコメント欄やSNS上では、誰かを批判したり罵ったり、ネガティブな言葉で埋め尽くされている。

 物事のいい面を見つけるより、悪い面を見つけるのは簡単だ。

息を吐くように、誰かのやる気を削ぐ、誰かの心を傷つける“黒い言葉”が拡散され続けている。

【野村ノート】に何を書くのか。自分を励まし、誰かを勇気づける言葉で埋め尽くされることを、野村は願っているに違いない。

silver liningという発想

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英語圏には、〈silver lining〉という表現がある。Silver=銀色、lining=服の裏地という意味。つまり、「銀色の裏地」。それを使った格言がある。

〈Every cloud has a silver lining〉

 直訳すると、「どの雲にも、銀色の裏地が貼ってある」。どんなに雲に覆われたどんよりした天気でも、ひっくり返せば太陽の光がある、ことを示している。

「どんなに困難な状況の中にいても、必ず希望は隠されている」という比喩だという。

 野村は、逆境を歩んだ〈経験〉と読書などで得た〈知識〉を融合し、〈知恵〉に変えた。そこから発せられた言葉は、まさに厚い雲の切れ間から差す太陽の光のように、一歩を踏み出そうとする人々を支えてきた。

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