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――とよさんは変わらなかったからこそ、冷静に振り回される人たちを眺めることができましたね。 

澤田 変わらない人が一番強いんじゃないですかね。ちょっと話が外れるかもしれませんが、歴史小説ってそもそももう決まってしまった過去、つまり変わらないものを書くじゃないですか。現代の社会はどんどん変わっていくけれど、過去は変わらない。だからこそ、変わらないものを書きたいのかもしれません。 

15年続けている、「時給940円のアルバイト」

――澤田さんは最近、江戸や近代ものを書くことも増えていますよね。 

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澤田 時代が平成から令和に変わったというのは大きいですね。このお仕事を始めて11年になりますが、平成から令和になって、明治や大正も書いてもいいんじゃない? という雰囲気を感じます。今後は明治大正が歴史小説のひとつの主戦場になるんじゃないかと思っています。この時代、今まで書かれていないけれど魅力的な人がいっぱいいるんですもん。 

――そもそも歴史がお好きだったのですか。 

澤田 私は知らないことが知りたいんです。明治大正であっても戦国であっても、知らないことが知りたい。その中で、古代というのはやっぱりわからないことが多いので、惹かれる割合が高いです。 

――それで、大学でも歴史を専攻されて。 

澤田 研究者志望で、大学院を出ました。研究者って九分九厘まで事実を積み上げて、その上でほんのわずかなところに推測をもたせるんですね。ところが私は7割くらい積み上げた段階で、「もういいや」ってはしごを下ろしちゃうんですよ。私は推測のほうが楽しいんだなと気づきました。 

 

 たとえば『夢も定かに』という奈良時代の女官たちの話で、生理休暇があるって書いたんですよね。読者さんからも「そんな記録があるんですか」と訊かれたんですが、実はそういう史料はないです。だけど、血が汚れだった時代において、やっぱり生理の時期は強制的にお休みさせられたんじゃないのかなと想像すると、古代の姿がちょっとはっきりする。史料にないから証明できないことも、推測で明らかになることがあれば推測したくなるので、やっぱり自分は研究には向いていないな、となりました。 

 それで飛び出すように大学院を辞めて、どういうふうに歴史にアプローチできるかなと考え、最初は歴史エッセイを書き、もうちょっと長く手に取ってもらえる何かを、と考えて、結局小説を書き始めました。 

 でも、大学院をやめるまでの間にどこか就職口があれば、きっとそっちに進んでいたと思います。博物館の学芸員さんとか、自治体の文化財課職員とか。今でも私は貪欲なので、他の道も諦めたくないんです。だから、いまだに大学で事務員のアルバイトもしています。時給940円でコピーとったりお茶くみしたりしてますよ。学生さんに「はい、プリント」って対応したり。今度の土曜日もバイトですよ。 

――あれ、御名刺に客員教授とありましたが。 

澤田 えっと、「同志社大学客員教授兼アルバイト職員」というのが私の正式な肩書です。 

 客員教授については高等研究教育院という組織が学内にあって、今年度からそこが開催しているプログラムで文章の書き方のようなものを教えてほしいと頼まれました。アルバイト職員のほうはかれこれもう15年ほど続けています。そちらは博物館学芸員課程という、学芸員さんを養成するための講座があり、そこの研究室のアルバイトです。